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夜も、朝も、この曲たちと生きていく。 「夜にしがみついて、朝で溶かして」ライナーノーツ

人生初のライナーノーツ。大好きなバンド・クリープハイプと、最高のアルバムに捧げます。

1.料理

アルバムの1曲目は、新学期の自己紹介みたいだ、と思っている。
まだ風の冷たい4月。クラス替えをして、改めて自己紹介をする時。期待と緊張が混ざる感覚。そんな感覚を思い出しつつそっとアルバムを手に取る。

覆っていた透明なフィルムからアルバムをそっと取り出して、装丁を眺める。ディスクを取り出す前に、シリアルナンバーの紙が入っていたりして。あぁ、新しいアルバムなんだ、と実感する。
今回のアルバムはどんな自己紹介をしてくるだろうか。期待と緊張、それを感じながらディスクを取り出した。

「料理」は、アルバムの1曲目に相応しい、クリープハイプのアルバムだ!としっかり分からせてくれる楽曲だ。
イントロの疾走感。幸慈さんのステップが浮かんでくる。
「愛と平和を煮しめて」と一行目から炸裂する尾崎節。「煮しめて」ってすごく味のあるいい言葉だな。 カオナシさんのベースの動きに胸を高鳴らせながらBメロへ。掛詞の連鎖に、ひしひしとクリープハイプを感じる。
そこからシンプルかつしっかりとしたサビへ。これが待ち望んでいたクリープハイプのアルバムだ!
拓さんのドラムは、1番では力強く、2番では遊び心を感じる。
ここから後半になるにつれて、宝物のような歌詞が紡がれていく。
「やっぱり横にはツマでしょう」「箸の持ち方で真ん中がわかる」
「なぜか腹が減る こんなに悲しいのに」
まだアルバムの一曲目なのに、もう感動してしまって、次の曲に進むのが勿体ないほどだ。
これは間違いなく最高のアルバムだと、1曲目からそう思わせてくれるのが「料理」なのです。
なんだか1曲目からライナーノートが長くなっちゃたな。ここの書き方が私の自己紹介にもなるのに。ついつい好きなものへの愛が走りすぎて話しすぎてしまう、そんな私ですが、どうか最後までお付き合いください。

2.ポリコ

初めて聴いたのは『ハイパーポジティブよごれモン』のEDだった。キャラクターが可愛く踊る姿と相まって、ポップなノリやすい曲という印象。だからこそアルバムで聴いた時に一番ギャップを感じたのがこの曲である。
なんてロックなんだろう!!!かっこいい!!!

今の季節に沿って例えるなら、ガッチガチにした氷のような雪玉を全力で投げてくるような曲。ふわふわの雪玉じゃなくて、ガチガチのやつです。当たると本っ当に痛いの。
ポリティカル・コレクトネスをテーマにしたこの楽曲。周りへの配慮の気持ちから派生した「思いやり」なんだろうけど、それが生み出す息苦しさ。
負の感情を昇華するのがロックだと個人的に思っているので、この曲の昇華のさせ方は最高にロックだ。
ポリコを聴きながら、私にも雪玉が当たるような気がするのは気のせい……?

3.二人の間

「料理」「ポリコ」の疾走感とともに気持ちが走り続けてきた私たち、そこに出されるあったか〜いお茶のような存在。それが「二人の間」である。
ダイアンさんへの楽曲提供として作られたこの曲。芸人さんの賑やかさや熱さ、スポットライトの当たるような派手な部分ではなく、相槌や空気感、特別ではない日常を切り抜く着眼点が、まさにクリープハイプらしい。
「あ と うん の隙間にある」芸人さんの阿吽の呼吸や、あの「うまい空気」が伝わってくる歌詞。それを包み込む、温かみのあるサウンド。音楽っていいな、とほっこりした気持ちにさせてくれる。
半音下がるサビが特に好きで、ダイアンさんver.との聴き比べをして、どっちもいいなぁ〜、と楽しむのが私の最近のマイブームだ。

4.四季

「四季」というタイトル通り、春夏秋冬いつでも私たちに寄り添ってくれる、相棒のような曲。

「年中無休で生きてるけど楽しいからしょうがねー」
青春を感じる瑞々しい言葉と、軽やかなドラムで彩られる春。
来年の春は、桜並木を自転車で走りながら、MVのようにこの曲を口ずさもう。

「忘れてたら忘れてた分だけ思い出せるのが好き」
この歌詞に心掴まれる、夏。
なぜかいつも無性に聴きたくなるバンド。全然さわやかじゃなくて、ベッタベタの蒸し暑い熱帯夜みたいな。フェスで盛り上がるあの夏の曲を浮かべながら、この歌詞ってクリープハイプのことでしょ?と思っている。

「年中無休で生きてるから間違うけどしょうがねー」
曲調で季節の移り変わりを感じさせるなんて、粋だなぁ。街路樹の色が暖色になってきて、過ごしやすいような、少し寂しいような。そんな少し感傷的になる秋と、日常のリンクが印象的。

「その時なんか急に無性に生きてて良かったと思って」
冬の夜、寒くて息も白くて、電柱の寒々しい蛍光灯を眺めて、改めて寒いなって思って。そんな情景がありありと浮かぶ歌詞。なぜ尾崎さんは、みんなの中にある共通認識できる一瞬を上手く切り抜けるんだろう。この歌詞を読む度に感嘆している。

「少しエロい春の思い出」
そしてまた春が来る。エロさに焦点を持っていくところに、クリープハイプらしさを感じて、なんだかホッとするような、少し照れちゃうような。
何度も何度もリピートしたくなる、私たちの日々に寄り添ってくれる1曲。

5.愛す

私がクリープハイプをさらに好きになったきっかけはこの曲だと思う。
個人的な思い出だが、10周年記念ライブ(2019/11/16 @下北沢CLUB Que)で、新曲として初めて聴いたのがこの曲、「愛す」だった。あの特別な日に、あの特別な場所で、この曲に包まれた時、とても心地よくて、運命を感じた。

クリープハイプが、ギターロックではなく『バンドらしくないサウンド』を追い求める中で作り上げたこのシングル曲が、アルバムの中でこんなにしっくりハマるとは。この新機軸がクリープハイプをさらに魅力的なバンドにしたことは間違い無いと思うし、このサウンドがあったから、私はクリープハイプのことがさらに好きになった。
昔も好きだけど、私は今のクリープハイプがとにかく大好き。

6.しょうもな

「二人の間」「四季」「愛す」と穏やかなテイストの楽曲が続いていたこのアルバム。ここで「しょうもな」を入れるセンス!最高!!
イントロの序盤は緩やかで、これまでの余韻を引っ張るかのよう、と思いきや急に全力疾走するこの高揚感!体が勝手に動き出し、心が踊る。
Aメロは『愛す、を書いていた自分へのメッセージ』と尾崎さんが発言していたが、その楽曲を「愛す」の後に入れているところも含めて、素晴らしい曲順だと思う。
言葉の掛け合いを目一杯散りばめているBメロがあるからこそ、シンプルで、心にストンと入ってくるサビが引き立つ。
「言葉に追いつかれないスピードで ほんとしょうもないただの音で」
圧倒的なスピード感で歌詞を振り切るような感覚。
この感情の高鳴りを、歌と音で表現できるバンドサウンドって最高だ。

7.一生に一度愛してるよ

とにかくとにかく大好きです!!!ありがとうございます!!!

……急に語彙力を失ってしまったが、1曲リピートで数日ひたすら聴き続けるくらい(実話)、私が愛してやまない曲だ。
まずは歌詞。バンドと恋人を対比させる何とも上手い構成で、皮肉がバンドファンに刺さる、刺さる。バンドからの愚痴だよなぁ、と思う点も多々あり、歌詞だけでも相当に引き込まれる。さらに、これまでの楽曲の歌詞が練り込まれていて、その遊び心にとびっきりときめく。
「103です」をカオナシさんが歌っていたり、「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」とファーストアルバムのタイトルを最後に持ってきたり。これまでの楽曲への愛にキュンキュン(または動悸)が止まらない。
そしてサウンド。皮肉を歌っているのに、音は明るく柔らかい。ファンを「仕方ない奴らだなぁ」なんて言いながら愛してくれているような、そんな優しさを感じるのだ。

これまでの楽曲、そしてファンへの愛情がひしひしと伝わってくる1曲。
私はこの曲をバンドからのラブレターだと思ってるよ。

8.ニガツノナミダ

アルバム折り返し地点、既に長文なのですが、まだ読んでくださっている方はいるのでしょうか……?え?読んでいる?ありがとうございます!

アルバムの詳細が発表された時、ニガツノナミダの音源化が嬉しくてたまらなかった!
2分の中のめくるめく展開、その緩急はまさにジェットコースター!
携帯会社とのタイアップなだけあって、「速度制限」「SNS」「Wi-Fiスポット」という特徴的なワードが散りばめられており、語感が楽しい。「30秒真面目に生きたから」「あいつ魂売りやがった」など皮肉も効いた、バレンタインの曲なのにピリ辛な楽曲。
これからはいつでもこの曲を聴けると思うと、胸が熱い。

9.ナイトオンザプラネット

映画を一本観たような充足感。ドラマチックであり、かつクリープハイプの新しい音作りを存分に味わえる、非常にかっこいい楽曲である。
AメロBメロは語数が多く、歌詞の登場人物たちの思い出を追体験するような感覚とともに、自分の中の同じような体験を思い出す。なんだか不思議で、懐かしい、この感覚。
そんな一つの小説のような歌詞とマッチするのが、バンドサウンドからあえて距離をとって作られた味わい深いサウンド。
「それでちょっと思い出しただけ」という言葉のさりげなさが、この曲の醍醐味ではなかろうか。

10.しらす

肉料理の胡椒のような、アルバムの中のスパイスとなる作品。
『尾崎世界観の日』での演奏は、とても凛としていて、会場全体をカオナシさん色に染めていた。そんな雅な印象はアルバム版でも大切にされつつ、バンドやコーラスが入ることでより重厚感も増して素敵な仕上がりとなっている。ぜひライブで一緒にあの振り付けをやりたいものだ!

11.なんか出てきちゃってる

なんてセクシーなんだろう……!
「偶然ネジがゆるんじゃって」のクセになるメロディーライン。演奏の独特なうねうね感。尾崎さんの毒のある不思議なポエトリー。突然激しくなるサウンド。ミュージカルの暗転のような最後。
複雑なのにまとまりのあるこの曲にぞっこんである。生演奏だとどうなるんだろう。早くライブで聴きたい!!!

12.キケンナアソビ

「なんか出てきちゃってる」から引き続き妖艶なサウンドでありながら、切なさを合わせ持ち、「モノマネ」「幽霊失格」にバトンをつなぐという神曲順。
「愛す」のノートでも記したように『バンドらしくないサウンド』という新機軸の中でも、「キケンナアソビ」と「愛す」がそのパイオニア的楽曲だと思う。「キケンナアソビ」の切なくエロティックな夜感は、これまでのギターロックだけでは見れなかった新たな表情であり、それでいて歌詞によってクリープハイプらしさがブレずに残っている、素晴らしいバランス。

13.モノマネ

モノマネをテーマに綴られる、ある恋愛の終わり。
テレビで観た似てないモノマネ、あの日の恋人のモノマネ、ボーイズENDガールズのモノマネ、……様々なモノマネがクロスしていく歌詞に感動する。そして、作品内の二人の物語を切なく彩るメロディーも秀逸だ。
「ある晴れたそんな日の思い出 どこにでもある毎日が 今もどこかで続いているような 気がして 探して」
言葉に出来ない感情や空気感がこの一行に詰まっていて、その情景が浮かんでくる。クリープハイプの楽曲は、日常のふとした瞬間の感情を、真空パックのように新鮮に切り抜いているからこそ、ファンの日常に寄り添う素晴らしい楽曲が生まれるのだと、改めて気付いた楽曲でもある。
この曲は『映画 どうにかなる日々』の主題歌で、映画で描かれた様々な愛の形にも寄り添っていた。この楽曲が劇場のエンドロールで流れた時、思わず涙が出たことを思い出す。
切なくて、痛くて、苦しくて、大好きな曲。

14.幽霊失格

冒頭のお化け屋敷のような音から始まり、低重心な深みのあるサウンド、サビのグッと心を掴まれるメロディー。華のあるメロディーと共に歩むのは、幽霊との、いや別れた恋人との思い出。
冒頭、「そんな夜」の「そんな」という含みを持たせた言葉の、聴き手の思い出を重ねる余白が好きだ。
歌詞と音楽が合わさって、一つの物語として完成している美しい楽曲。
「モノマネ」からの「幽霊失格」、そしてこの後の「こんなに悲しいのに腹が鳴る」の流れに、ついつい涙腺が崩壊する。

15.こんなに悲しいのに腹が鳴る

音楽雑誌で初めてタイトルと尾崎さんの手書き歌詞を読んだ時に、一目惚れした曲。まだ音はなかったけれど、絶対に好きな曲になると確信した。
アルバムが届いて、最初から順番に流していき、最後のこの曲を聴いた時、私は、クリープハイプを好きでよかった、と思った。これまで何回も口にした台詞だ。でももう一度そう言いたいと思った。
サビが盛大に盛り上がるわけじゃない、でも、だからこそ歌詞が沁みる。

この15曲目を聴きながら、私はこれからもクリープハイプの音楽と一緒に、何でもない平凡な日常を送りたい、と思った。
嬉しい時も、イラついた時も、クソみたいな感情の時も、そんな日常の一瞬を切り取って、言葉にならない感情を音楽に昇華させてくれるのがクリープハイプだ。どんな気持ちの時でも、クリープハイプの曲はそばにいてくれる。

アウトロが少しずつフェードアウトしていくように終わっていく。まるで夕暮れのように。その寂しさが、アルバムのリピートボタンを押させる。
さぁ、また一曲目から味わっていこう。

ここまで読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。
そして素敵なアルバムを届けてくれたクリープハイプ、ありがとうございました。これからも私はクリープハイプのファンです。

文責:みのむし


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