見出し画像

「町の発展、その順番を読む」つづき

「町の発展とその弊害」には、また「別観点」があります。

それは
①建築ラッシュ、それと関連して
②銀行融資姿勢の変化
③建築ショック
です。

前稿でも触れましたが、高度経済成長下にあった1960(昭和35)年、池田内閣による国民所得倍増計画のもと社会資本の充実が図られ、
治山治水・港湾・道路・住宅等の公共投資が積極的に行われました。

民間の設備投資もこれに刺激されて、特に高速道路や交通機関の発展する先々に、工場・事務所ビル・ホテル等の建設が行われます。

さらに、1964(昭和39)年の東京オリンピックを契機に、
首都圏を中心に様々な競技場・宿泊施設・交通網の整備が進められました。

更に例を挙げると、
1986・89・93年の「第○次マンションブーム」、

2000年代初頭、
「JREIT(不動産投資信託。皆から預かったお金で不動産を買って運用、利益を分配する仕組み)市場開設」、

「マンション建て替え円滑化法」、
「不動産投資加熱」、
「2011年3月・東日本大震災、沈静化以降の復興需要」、

2013年のアベノミクス、
黒田日銀総裁の金融規制緩和と消費税上げ、
このタイミングでの「消費増税前の駆け込み需要による住宅着工増加」、
そしてコロナ後期/ウクライナ戦争/紅海閉鎖の「世界物流梗塞」など…。

ーーーーーー

「建築ラッシュ」自体は景気の良い話ですが…何が問題なのでしょうか?
それは建材・工務店・職人への「需給関係」の急激な変化をもたらす点で、「家屋不作の年」を作り出す事です。

つまり
①皆が「家が欲しい」「いま買わなきゃ」と思い
②金融機関(金融庁)が融資の姿勢を緩めてお金を貸すようになり
③それを見て建築会社は「土地を押さえろ」「注文取れ」と動き出します。

④建材発注が嵩み、職人さんの雇用も伸びると、需給関係により
建材や職人さんの取り合いで値段が上がります(需要↑、供給↓=価格↑)
⑤建材や職人さんが値上がり/不足する中、お客さんに全て転嫁できるほど価格は上げられない…迫る納期…どうする??

これは「どの会社が何をした」ではなく一般推論ですが、
それらのしわ寄せは必ずや、下請けに重い負担となって圧し掛かったでしょう。つまり原材料は値上がりするも最終価格は上げられない…ならば
下請けに対して「(以前と変わらず)この金額でやって」「期限もいつも通りにお願い」と投げるわけです。

全ての費用が上がっているのに、貰えるお金は変わらない…ならば下請けも
「工賃変わらないなら、●孫請けにもっと安くやらせるか●材料費削る/廃材使うか●日雇い使うかして、コストを下げよう」となるでしょう。

と言う感じで、
需要の増加に伴った急ピッチの納期で、急いで建てて売ってしまおう。
誰でも良いから作業に取り掛からせ、見えないところは手を抜いたり、リサイクル材(別現場の廃材)を使ったりして「ともあれ納期間に合わせろ!」

そんなムードが漂うのが、建築ラッシュの時なのです。
だから築古戸建はもとより、
一度建てたらプロでも良し悪しが分からない「鉄筋コンクリート造(RC造)」は、上記のような「ラッシュ年度」に掛かっていないか、建築年代を見て注意して選ぶ必要があります。

ーーーーーー

下請け制度。

テレビCM を流している大手建築会社は、お客さんからの注文を受けると、細かい情報まで詰めて契約・図面起こし・部材の仕様を決めて、
その地域・近隣にいる協力工務店(これが下請け会社)に仕事を割り振ります。

下請け会社は、十分な利益が約束され、かつ監督・従業人・工具・車両等が足りればその仕事を受注しますが、逆にあまり儲からない仕事、納期に絶対間に合わない仕事…はしたくないですよね。

そこで、更に下の協力会社に仕事を割り振ります。
もちろん「紹介料」を抜いて、更に安い工賃・短い納期で渡します。
新築住宅に実際につぎ込まれるお金、原材料費と人件費…は、こんな搾取の仕組みを通ることで「半値八掛け2割引(つまり0.5×0.8×0.8=32%)」程になってしまうのです。

親会社(大手建築)から子請け・孫請け…とバトンが渡る中で、もう一つ大きな弊害は
「下請けはやれと言われた事をやって、お客からの文句は親会社に言ってもらう」
「大手の持ってきた仕事なので、別にうち(工務店)の評判が悪くなる訳じゃない」
「お客とも、長期的な関係になる訳でもないので、責任ある仕事をする必要もなし」…と言うようなモラルハザードです。

下請けも契約違反・違約金は怖いので、無理に間に合わせるために職人大残業、または未経験の単純労働者で人海戦術…なんて状況に。
そんな舞台裏が読める「建築ラッシュ」年度は、ワインの世界ではありませんが「その年は不作だったね」。
「ならば物件調査、細部まで(床下・天井裏まで)ちゃんと見て評価しよう」「必要ならリフォーム職人さんにも見てもらおう」と、一層注意して進めては如何でしょう。

ーーーーー

(最近(2022年以降)の建材不足・価格高騰で、現場に起きたことは:
●屋根・外壁の下地に使ってはいけないOSB・MDF合板(湿気に弱く、濡れれば耐用年数がガタ落ちする)が普通に使用される
●太い材木がもはや手に入らないので、集成材の柱や梁を使う
●一番大事な土台に、SPF材を3本組み合わせて太い材として使う…など。

それでも給湯器・エアコンなどの設備、建具・キッチンセットなどが品薄~品不足で、工期が数か月ずれ込んでしまう…。

そんな、新築オーナーには悪夢のような時期でした)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?