6月22日4回生ゼミCA【学校での「あだ名禁止」に対する是非】

ここでは、6月22日3限の4回生ゼミで実施されたCA(テーマ:学校での「あだ名禁止」に対する是非)の議論の内容についてまとめる。

記事

【あだ名禁止の経緯】
学校での「あだ名禁止」の動きは、いじめ全盛の1990年代後半から見られ始めた。いじめ事案では「嫌なあだ名で呼ばれた」という被害者の言葉が必ず出てくるのでいじめ防止の観点から「あだ名禁止」の気運が高まったことになる。のち、2013年施行のいじめ防止対策推進法、2017年発表の国のガイドラインを受け、いじめの早期発見のために子どものあだ名や呼び名に気を配ることが重視されるようになった。
【文科省の見解】
文部科学省の問題行動・不登校調査によると、全国の小学校でのいじめ認知件数は増加傾向だ。2020年度は42万897件の報告があり、このうち約6割が「冷やかしやからかいなど」だった。児童同士の呼び方について、文科省では指導はしておらず、担当者は「あだ名にはプラスとマイナスの両面がある。相手をどう呼ぶかは、相手がどう受け止めるのかに尽きる」とする。
【学校】
 <友だちを呼ぶときは『さん』をつけます>。水戸市の私立水戸英宏小では校則にそう明記している。野淵光雄教頭(51)は「あだ名は身体的特徴や失敗行動など相手を蔑視したものが多い。呼び方だけでいじめを根絶できるわけではないが、抑止することにはつながる」とする。約160の公立小学校がある京都市でも、ある校長は「この10年で『さん付け』は半数近くにまで広がっている」と語る。
また、「自分に付けられたあだ名をどう感じているか」「クラスメートに付けられたあだ名の中に違和感を覚えるものはないか」などの質問を紙に書いて提出し、担任の先生だけがそれに目を通す。そこで本人から「嫌だ」と自己申告があったあだ名や、多くのクラスメートが問題視するあだ名を精査する狙いがあったようだ。
【世論】
SELFは、スマホアプリ「SELF」を利用するユーザー6,267人に「あだ名禁止」に関するアンケート調査を実施し、2022年8月5日に調査レポートを公表した。あなたは「あだ名」を禁止すべきだと思いますか?という調査を行ったところ、あだ名について「禁止すべきではない」と回答した人が75%に及んだ。日本トレンドリサーチが20年11月、社会人1400人に調査したところ、小学生の頃にあだ名があったのは69%。このうち36.7%が「嫌な思いをしたことがある」と回答した。小学校の校則であだ名が禁止されることについては「賛成」が18.5%、「反対」が27.4%、半数超の54.1%は「どちらでもない」だった。
東レ経営研究所(東京都)では、2020年から上司も部下も「さん付け」で呼び合うことを決めた。肩書での呼び方を改めて、一人ひとりを優秀な社員として尊重し合い、働きがいを持ってもらうことが狙いだという。ウェブコンサルティング会社「フォノグラム」(広島県)では、03年の創業当初から社員同士をあだ名で呼び合う。代表の河崎文江さん(47)は「河崎」を中国語読みした「ハーチィ」が呼び名として定着しており、「親しみを感じて話しやすくなり、会話から新たな仕事のアイデアが生まれる」と語る。

議論:立論者の立場と意見、及び反論

立論者は「あだ名禁止」に対して「賛成」の立場をとる。(反論は「反対」の立場から行う。)

※前提条件の確認
Q.このテーマの是非を決めることの意義をどのように考えているか?あだ名問題は当事者問題でしかないのでは?
A.あだ名自体に対して嫌だと感じている人がいる以上、議論の余地はある。

Q.禁止の定義は?
A.あだ名で呼んでいる生徒に注意する。校則としての扱い。

立論側の意見

※立論側の意見を太字、反論側の意見を細字で記載。

1.あだ名禁止は妥当性がある。
└いじめ事案では「嫌なあだ名で呼ばれた」という被害者の言葉が必ず出てくるといったことから、あだ名といじめに関連性があると判断できるため、あだ名を禁止することは妥当性がある。

→あだ名がなくともいじめは存在する。あだ名の由来や付けた人、呼ばれている側の性質にも大きく左右されるため、いじめに関連性があると判断するのは難しいのではないか?また、先行研究によるとニックネームは自己肯定感を高める、対人コミュニケーションをしやすくする、友好関係を高める、という正の側面があるとされている。こうした点を踏まえ、なぜあだ名呼びがダメなのか?

→一度傷ついたらその傷を癒すことはできない。あだ名呼びに嫌悪感を抱く人がいるという負の側面がある以上、負の側面を打ち消すべきでは。

2.あだ名呼びがいじめを助長する可能性を無くす。
└あだ名呼びを規制することで、少なくともあだ名呼びから始まるいじめ、あだ名呼びがいじめの決め手となる可能性がなくなる。

3.気付かぬ間に不快感を抱かせている可能性がある。
└実際に、呼ぶ側の気付かぬ間に、呼ばれる側が不快感を抱いている事例がある。

4.呼ぶ側にも配慮した制度である。
└軽い気持ちで知らぬ間に人を傷つけてしまう可能性がなくなる。

→小学校を対象に実施されたアンケートでは、あだ名呼びへの賛否について「どちらでもない」と半数以上が回答している。その中の意見として、「あだ名をつけたら仲良くもできれば、嫌な思いをする人もいる。校則として縛られることには違和感がある」、といったものが挙がっている。

あだ名禁止「賛成」の回答者の中にはいじめの当事者になった人がいる。一方で、反対やどちらでもないの回答者は当事者経験がない。当事者を守るためには必要なのでは。

5.あだ名呼びにより傷ついた人をケアできる先生や制度が無い

→教師側の立場に立つと、指導が入る分の負担が増えることになる。ただでさえ業務量過多の現状に対してそれは問題なのではないか。
→制度が変われば仕事が増えるのは当たり前。
→政府の動きとしてこれ以上教師の業務量を増やすことはできないとされている。
→制度に対する妥当性があれば、そちらを優先するべきである。

講評:教授より

あだ名禁止は、あだ名呼びに伴うリスク回避のためだけの施策。
教育機関の立場からすると、それだけの意味しか持たないある意味つまらない話。
「あだ名で呼ばない」ことのポジティブな側面はないのか?というのが今回の議題に対するポイントだった。
いじめ問題に限ると議論が狭まってしまうため、「言葉の使い方の学習効果」といった別の観点から議論ができたら面白かったのではないか。


参考リンク

山本豊「『くん付け』ダメ、あだ名も禁止は間違い」一般社団法人全国教育問題協議会.2018.8.24
https://www.zenkyokyo.net/assert/appeal/1362

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