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2021年の「生理の貧困」を振り返って

こんにちは。あゆみです。
あっという間に2021年も終わりに近づいています。#みんなの生理にとっては怒涛の1年間であり、メンバーひとりひとりがたくさんのことを考えた1年でもありました。多くの方との出会いがあり、たくさんのご支援をいただき、皆様に心から感謝申し上げます。

さて、今年3月に「日本の若者の生理に関するアンケート調査」を発表してから「生理の貧困」が社会問題として認知されました。結果として、地方女性活躍推進交付金の使途に生理用品の配布が含まれ、内閣府男女共同参画局の女性活躍・男女共同参画の重点方針に「生理の貧困」への支援が盛り込まれ、これまでプライベートな問題とされてきた「生理」が政治の分野にまで進出しました。一方で、ダイナミックに社会が動く中でモヤモヤすることもたくさんありました。渦中で感じていたモヤモヤと、それらをもとにこれからの生理アクティビズムについて書きたいと思います。

そもそも「生理の貧困」とは?

内閣府は「経済的な理由で生理用品を購入できない女性や女の子がいる」ことを「生理の貧困」としていますが、この説明では不十分だと考えています。私たちは「(生理用品や衛生設備など)生理を衛生的に迎えるための物理的環境及び生理に関する教育に十分にアクセスできない状態のこと」というAmerican Medical Women's Associationが提唱している定義の方がより「生理の貧困」を的確に表現していると考えています。

この定義に則って日本の現状を考えてみると、上述の調査で明らかになった通り、若者の約2割が生理用品の入手に苦労しているという現状があり、「生理を衛生的に迎えるための物理的環境」が整っているとは言い難いです。また「生理に関する教育」についても、小・中・高でそれぞれ1~2回指導要領に登場し、授業で少し触れられるか触れられない程度です。このような点から、「生理の貧困」は遠い国の話ではなく、日本でも存在する問題であると言えます。

「生理の貧困」を解決するためには、生理に対する直接的な取り組みは必要です。特に、タブー視され、不可視化されてきた歴史が長い「生理」を単体で解決すべき問題として取り上げることには意味があると感じています。そのために、私たちは生理用品の軽減税率適用学校公共施設のトイレへの生理用品設置を求めて活動をしています。また、性教育の充実を求めて活動を続けている方々が数多くいます。そのような方々と連帯しながら、生理に関する課題を、ハード面でもソフト面でも直接的に解決していくことは極めて重要だと感じています。

一方で、「生理の貧困」は既にある社会の歪みが起こした問題であるという点も忘れてはならないと思います。これまで放置してきた男女の賃金格差、非正規雇用の増大、性教育の忌避、政治家の男女比率の不均衡など、既にある不平等によって様々な人が生理用品の入手に困っていたり、それについて声を上げづらい現状がつくられてきました。そのため、「生理の貧困」を生理の問題単体として捉えることには限界があり、原因となっている様々な社会的な背景に目を向け、それらの解決をしていくことも重要だと考えています。

以上の点から、「生理の貧困」を解決していくためには、生理への直接的な取り組みと同時に、その背景にある様々な不平等への解決が不可欠であると考えています。

「生理の貧困」に対する反応から見えてきたこと

「生理の貧困」が話題化されてから、様々なところで直接的な対策が行われました。例えば、防災備蓄庫の生理用品が放出され、それが市区町村役所の窓口で配られることがありました。また、公共施設に、スマホのアプリを用いて広告を見ることで生理用品をもらえる機械が導入されることもありました。私たちも全く予想していなかった、防災備蓄庫の在庫処分ビジネスの介入ということが一気に起こり、戸惑いがありました。メディアの取り上げ方も寄与していると感じますが、これらの方法では生理用品を配る人と受け取る人の間に不必要な上下関係が生まれてしまいます。本来「生理の貧困」は、起こるべきではない事であり、生理用品は誰もが遠慮なく使える、トイレットペーパーと同じようなインフラとして整えるべきだと考えています。にもかかわらず、窓口でお願いをしたり、何かを消費する代わりに生理用品を得られる仕組みが急速に広がり、そもそも「生理の貧困」を引き起こした不均衡なパワー・バランスが再生産されている現状がありました。

また、生理に関する取り組みを推進する際に、「生産性」を用いた議論が多くされる現状も目の当たりにしました。例えば、月経随伴症状による労働損失額はXX億円や「『女性のための健康経営』で業績があがる」といったデータを根拠に生理のケアが議論されることがあります。労働現場での「生産性」と引き換えに生理のケアを保障するという考え方は、人間よりも利益を重視する、危険な議論だと考えます。また同時に、「再生産(出産)」という意味での「生産性」も深く生理に関する取り組みに関わっていました。活動の中でよく「将来のお母さんのために」や「少子化対策の一環として」生理に関する取り組みを推進するべきという意見を聞きました。もちろん産む選択をした人への支援は重要ですが、私たちは必ずしも将来子ども産むために生理のケアの重要性を訴えているわけではありません「今」の自分の体と快適に向き合いたいというそれだけではなぜ議論が進まないのか、非常にもどかしい思いでいっぱいでした。

最後に、どのような社会問題にもつきものですが、「生理の貧困」も例にもれず「自己責任論」の標的になりました。「スマホや化粧を我慢すれば良いじゃないか」「生理用品を買えないのはお金の管理ができないからだ」は見飽きたコメントですが、生理があるということによって犠牲を払うことは自己責任の範疇だという意見が本当にたくさん届きました。(「女性=スマホ・化粧に夢中」という時代遅れなジェンダー観も垣間見れました。)また、「月経カップ/布ナプキンを使っていれば良いじゃないか」という、高価で再利用可能な生理用品を使えば良いと決めつけるコメントもありました。多様な生理用品はあくまで選択肢の1つとしてあることが重要であり、強制されるものでありません。現状はすべての人が等しく様々な生理用品を入手できる環境が整っていません。まずは、すべての人が、価格や安全性を心配することなく、自分の身体に合う生理用品を自由に選択できる社会をつくっていく必要があります。みんなで苦しい方向に我慢するのではなく、みんなでより快適で生きやすい方向に動く社会になることを願い、私たちも地道に活動を続けています。

このように、「生理の貧困」を問題化する中で、生理用品を得ようとする人が不利な立場に置かれたり、生理の議論が「生産性」や「自己責任論」に回収される現状に憤りを感じていました。このような状況を解消していくにはどのようなことが必要なのか、次のセクションで考えていきたいと思います。

これからの生理アクティビズム

「生理アクティビズム(menstrual activism)」は半世紀以上前からある運動の一種であり、「生理のタブーに対抗し、すべての生理を経験する人が生理周期だけでなく、人生を通じて健康で幸せな生活を送るための支援を求める運動」であると説明されています。生理のタブーを解体し、すべての人の健康と幸せを求める運動を推進するには、やはり上述の通り、生理に対する直接的な取り組みと同時に、背景にある様々な社会問題も解決していく必要があります。そのために、生理アクティビズムを行う私たちは他の様々な社会運動と連帯しながら、生理に関する問題の背景にある課題の解決のために活動をしていくことが必要だと考えています。例えば、私たちは労働現場における更年期差別問題に取り組むべく、労働運動と連帯しています。多様な社会運動と連帯することで構造的な問題の解決を図り、より多くの生理を経験する人が快適に生活できる社会をつくっていきたいと思っています。

また、「すべての生理を経験する人」の健康と幸せの実現を考えたときに、より多様な声が活動に反映されるべきです。私たちの活動でも反省する点が多々ありますが、どうしても生理を語るときには「シスジェンダーで『健康な』若い女性」が想定されがちです。様々なジェンダー・アイデンティティの人、色々な障がいや疾病のある人、多様な年齢層の人など、あらゆる人の生理に関するニーズが満たされて、初めて「すべての生理を経験する人」の健康と幸せが実現されます。あらゆる生理を経験する人の声が包摂されるような活動になるよう、私たちも自省と勉強を重ねたいと思っています。

そして最後に、今年は一方通行の発信同士がすれ違うもどかしさも感じた1年でもありました。私たちの意図していないメッセージが大規模に発信されたり、匿名で大量のコメントが届いたり、対等な対話が難しい状況でした。来年はオンラインカフェ(念願の対面イベントもできたら良いですが)等、ゆっくりと安心して思いを共有できる場を大事に、丁寧な対話が多い1年になることを願っています。ゆっくりと腰を据えて対話させていただけるたくさんの方々とのご縁があることを楽しみにしています。

これまで、「生理の貧困」とそれに対する反応、そしてこれからの「生理アクティビズム」に求められることについて書いてきました。私たちも悩んだり、学んだり、葛藤したりすることが本当に多い1年でした。これからも考えながら丁寧なアクティビズムを心がけながら活動をしていきたいと思っております。2021年に皆様からいただきましたご支援に改めて感謝申し上げます。来年も#みんなの生理をどうぞよろしくお願いします。

いただきましたサポートは#みんなの生理のアドボカシー活動及び生理用品寄付事業のために大事につかわせていただきます。 サポートに感謝いたします。