キム・ボムリョン「風!風!風!」(1985年、韓国)


韓国の中古レコードの保存状態は欧米や日本のそれと比べて悪い。何も日本のレコード愛好家の優越性を吹聴するわけではないが、日本で入手できる70~80年代韓国ロック・ポップスのレコードの方が概して保存状態が良く、また韓国で入手するよりもリーズナブルな価格で入手できる可能性が高い。
このレコードは韓国の主に80年代に活躍したポップス歌手、キム・ボムリョンの1st「パラム!パラム!パラム!(風!風!風!)」である。今日お茶の水の某大手レコードチェーン店で680円というお手頃価格で入手した。しかもシールド状態だったので新品同様だったのだが、なぜかジャケットの中に
「1985
キムポムヨン
パランパラン」
と日本語でボールペンで書かれた紙切れが入っていた。なぜそんなことが起こりえたのかは解らないのだが、韓国ではジャケットそのものに書き込みをしたりするケースも非常に多い。野暮ったいかもしれないが、私の経験を書いてみたい。
大学一年生の時に初めて韓国ひとり旅をし、購入したレコードの中にキム・テゴンの1stがある。韓国のレコードジャケットにはそれぞれの歌手のそれぞれのイチオシ曲が書いてあるのだが「望夫石 / アリアリ・アラリヨ」という曲名の上に「松鶴寺(ソンハクサ)」とボールペンでハングルでご丁寧にも書かれてある。なお、月日が流れ「ソンハクサ」はキム・テゴンを代表する曲となった。裏のジャケットには赤いマジックで解読できない漢字で何やら大きく書かれている。その他にもいろいろと書き込みはあり、ジャケットの状態もボロボロである。しかしレコードそのものは聴く分には大丈夫である。
70年代から活躍しているブルース・ロック歌手であるキム・ドヒャンのレコードジャケットの裏には何が理由でこんなことをしたのか、と思うほど抽象的な図形が描かれている。こう書くと不謹慎かもしれないが、このレコードの所持者は精神を病んでいたのだとしか思えない。
また、実際には購入しなかったが、明洞の地下街で見つけたチョ・ヨンピルのレコードジャケットにはチョの顔にネズミのようなイタズラ描きがされてあった。有名すぎるほど有名な歌手ゆえだろうか、彼よりも著名度は落ちる他の歌手の顔に同じようなイタズラ描きをしても面白くないかもしれない。
極めつけはブラック・テトラという70年代後半のロックバンドのレコード。ジャケットもボロボロだったが、何とこのレコードをプレゼントとして贈った人間と贈られた人間との間の手紙が図らずも入っていたのだ。興味をそそられ、辞書を引きながら何が書かれていたのかを調べてみたら、今日は何々を食べて…といった他愛のないものだったのだが、その文章の中に「学校の問題が」どうのこうのと書かれていたのが気になった。70年代後半~80年代前半の当時は学生運動に差し掛かる時期、社会的なものを反映していたのだろうか。なお、このレコードは経済的な理由で手紙同様手放してしまった。今考えるともったいないことをしたものである。
レコードに書かれた(描かれた)文字や絵・図形のひとつひとつに、当時の韓国の息吹が刻まれている。

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