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自然豊かな南山城村でお茶のかおりにつつまれて、地域のお宝に再び命を吹き込み、人との交流を生み出す。井戸野茶園 4代目代表「井戸乃井」 井戸野修子さん

みなさんはお茶をよく飲まれるでしょうか?僕もほぼ毎日飲んでリラックスしています。今回、お話を伺ったのは、井戸野修子さん。空気がおいしい南山城村のお茶の香りから始まった地域のまちづくり活動についてお聞きしました。 

井戸野さんは京都府南山城村で宇治茶の栽培・生産をされている井戸野茶園4代目「井戸乃井」 代表として家業を継がれました。そのかたわら地域の活性を目的に活動されている古民家リノベーション(再生)に取り組む、「ものつくる ね」の代表をされています。

地域の特産品である宇治茶を出発点にまちづくり活動を始められ、以前の勤めておられたハウスメーカーでの経験からライフスタイルを提案できるような拠点づくりにも取り組んでいるというわけです。

身近にあるお茶がきっかけ

南山城村は自然が豊かで、「風景は山と茶畑のみ」と話す井戸野さん。ご実家の隣は茶工場で、そこからお茶を蒸すかおりがしていたそう。茶業の繁忙期である4月~7月は工場はフル回転、夜遅くまで操業されています。そんなお茶のかおりにつつまれる日常を五感で感じていました。

ところが、茶業は「地域の産業」「お父さんの仕事」という認識で、自分で始めようとするまで興味はなかったそうです。

ご主人が雑貨業を始められた際、手伝いをしていた井戸野さん。「どうすればうまくいくんだろう?」と試行錯誤するうちにマーケティングの意識が芽生えたそうです。そこから仕掛ける側の視点に立ち、発信する意識を持つようになりました。マーケティングの視点で茶業を見直すと、「自分たちが思っている以上の商品価値があり、売り方次第では売れるのでは?」と考えるに至ったそうです。

井戸野さんが初めて茶業に関わったのは、無農薬無施肥のお茶づくりをしていた叔父さんの茶業をプロデュースしたときでした。叔父さんが収穫し生産加工した茶葉を個人販売するため、5年前に自社ブランドを立ち上げ。ネット販売やユニークなパッケージなどのアイデアを出したそうです。さらに、春から夏の季節は他の仲間たちとマルシェを開催したり、イベントの企画運営を始めました。

「お茶イベントのスペースがあればいいね」から

茶業のプロデュースを進めるなかで、「お茶イベントをするときにスペースがあればいいな」と考え始めた井戸野さん。工場の近くにあった小さな古民家で、ワークショップ形式でDIYでリノベーションすることにしました。このワークショップに集まる建築関係の仲間と一緒に立ち上げたのが「ものつくる ね」です。

間取りを考えながら、床を張ったり、土間を作ったり、壁を塗ったりするワークショップを、月に1回程度開催。建築のプロたちも興味を持ち、「みんなでつくる」プロセスそのものを楽しむ場になっているそうです。

「古民家ワークショップの目的は、ワークショップを通じて昔からあるこの土地のお茶のある暮らしを伝えながら、地域内外の人々との交流を増やすことです」。

現在進行形のイベントとして、DIYのプロセスも南山城村の情報発信に活用。DIYの現場を、お茶会や自社製品の撮影の場として利用する人も現れているようです。「サグラダファミリアのように、作り続ける場であってもいい」と考えているという井戸野さん。「とにかくやってみよう」と活動を進めていく、彼女の前向きなエネルギーを感じます。

井戸野さんにとっての「お茶の魅力」って?

お茶の話をしている時の井戸野さんの表情は、とても生き生きとしてます。どうして、そんなにお茶に魅力を感じていらっしゃるのでしょうか?

「お茶の魅力とは、日本人の誰もが知っていて、何にでも添えられることだと思います。今では、お茶クッキーどころか、茶葉入りソーセージなんてあるんですよ。でも、大切なのは、お茶の周りに会話が生まれるということだと思うんです。私の中ではお茶は場や空間をつくるツールなんですよ。人とのつながりにずっと寄り添っていたのがお茶だと思うんです」。

古民家ワークショップの休憩時のこともお聞きしました。休憩時はみんなでお茶を飲むことにしているとのこと。 実際に「お茶のある時間を体験することで、お茶の魅力を理解してもらえれば」と彼女は話します。

昼休みは長めに取られ、参加者みんなの交流の場となっているそうです。ちょっと息抜きをして、次の作業の準備に入るそんな風景が目に浮かびます。そこで一体感が生まれ、次の作業も楽しく進むのでしょう。

一方で、井戸野茶園4代目としては、地元の70代の茶園主たちが廃業し生産者が減っていることが気にかかっていると言います。

「茶業の現状を踏まえながらも、地域の問題を解消しつつ事業を考え、流通を変えていくこともできるのではないかと考えています。宇治茶の生産量が少ないということは、裏を返せば希少価値があるということ。チャンスはあります。それでも、継続が難しい場合は、茶業以外の業態の考え方も取り入れることが必要かもしれません」。

さらにお話は次を見据えます。「茶業は家族だけの経営では難しい時代になってきました。茶業は南山城村地域の産業として成り立っています。今は分業が進んでいますが、古民家のリノベーションを通じて、田舎の生活を伝えたいと思います。ひとりの人の出来ることがすこしずつ増えれば、最終的には何でも出来るようになると思うからです」

「リノベーションの情報発信から少しでも多くの方に南山城村に足を運んでいただき、外から来る方に移住では無くても地域の関係人口を増やし、理想は村の人口も増やせればと思います」。

僕は、ゆるキャラの出演活動と並行して伏見発祥の寒天を広める活動もしています。自分の周りの人たちをお手伝いする中で身近にあるお茶の価値を再認識された井戸野さん。

身近なものが実は大切な価値があることになかなか気付けません。それに気付いて、多くの方に広める。すごく同感です。そして地元での作る工程こそが大事なのだと教えて頂きました。自分のゆるキャラ出演を終えたときにお茶を飲んだり、何気ない日常のお茶を飲むときにリラックスします。彼女のお話を聞いて、お茶の持つ魅力に共感しました。

(文・写真/立野晃史)