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第7回 貫井ご夫妻の”こうしよう術”

「みんなで就学活動」は、支援の必要なお子さんが小学校に就学する時にご家族が遭遇する困難や悩みを知るとともに、自分たちにとってより良い選択を描きながら就学できるようにするための“こうしよう”術を、みんなで対話し、つくりあげていくプロジェクトです。
ここでは、実際に就学活動を終えられた先輩方に、リアルな経験談をお聞きし、それぞれの方の知見を”こうしよう術"としてご紹介していきます。

就学活動は、夫婦の意見を合わせながら進む道

貫井 依里さん  はじめまして。東京都内在住の貫井 依里と申します。

貫井 悠司さん  夫の貫井 悠司です。我が家の子どもたちは小学校3年生と1年生。上の息子にダウン症があるため、小学校に入る前に就学活動をして、学区外の小学校で支援級に入学しました。

依里さん 都内とはいえ郊外のため、学区外への通学は車で送り迎えが必要だったり、そもそも学区外の入学申請までがすごく大変で、都市部との違いに驚くことが多かったです。

第一子なので就学すること自体のイメージも難しく、特に私は性格的に、母親としての責任感からいろいろ悩んでしまいがちでした。夫とふたりで協力しながら取り組めたことが本当に良かったと思います。

悠司さん 上の子が生まれてからずっと、二人の意見をすり合わせながら子育てしてる感じですね。小学校を選ぶ時、僕自身はつい「本人がのびのび過ごせたらどこでもいい」と考えがちでしたが、妻が早くから情報を集めて相談してくれたことで、しっかり取り組む必要があると実感しました。

ダウン症のある人たちと一緒に生きていく価値観に共感して「アクセプションズ」というNPOの活動に参加したり、「みんなで就学活動」のワークショップで勉強したり。その度にお互いの意見を伝え合いながら、息子にとっていい選択は何かと考えました。また僕自身も、子どもたちと過ごす時間をできるだけ優先するために起業したり、地域活動をしたりと、この街でずっと一緒に生きていくという視点でキャリアプランを考えるようになりました。

「前例がない」に引き下がらず、可能性を探る

依里さん 私たちはここに自宅もあるし、学校選びでも、この地域で一緒に生きていくことを一番の願いにしていました。なので、初めはやはり学区内の小学校へ見学に行ったんです。
ただ、支援級の授業を見学した際、先生の指導方法に疑問を感じて、他の学校も見に行くことにしました。

悠司さん そこは通常級と別の建物に支援級があることや、休憩時間に外に行けないなど、インクルーシブの観点からも疑問に思うことが多かったんです。それで就学相談では「学区外の支援級を見学をしたい」と伝えました。でも初めは「前例がない」の一点張りでしたね。話が平行線のまま進まないので、教育委員会に相談させてもらいたい、とお伝えして、その足で教育委員会の担当者に会いました。

依里さん それでも最初は同じような対応をされたんです。前例がなく、例えばいじめなどの深刻なトラブルでない限り越境進学はできない、ということでした。

それなら住んでるエリアの通常級で支援員をつけてもらうことはできないか、あるいは支援級の新設は難しいのか等いろいろ聞きましたが「市の予算上むずかしい」と言われました。でもそうやって可能性を挙げているうちに、我が家には学区内に選択肢がない、ということが明らかになって「他にないから学区外の見学に行かせてほしい」とお願いしました。

「前例がない」「予算がない」にも諦めず、
教育委員会を尋ねる、情報を整理し再度話すなどして、
慣習を変える可能性を探る。

「息子にとっていい学校」の判断基準を得るまで

依里さん 学区外の学校見学に行ったら、校長先生も教室に来てくれました。体験授業の日も教室まで息子の様子を見に来てくれたので、こちらから「お手間を掛けることもあるとは思いますが、息子が楽しく通えるサポートはしていきますので」と挨拶をしました。

悠司さん その時、子どもたちがのびのび過ごしている学校だと感じました。支援級といっても知的などの個人差があるのですが、「できるだけ息子に寄り添った授業をする」と言ってくださったのも嬉しかったです。最初に見学した学区内の小学校は、支援級の学習レベルを上げることを目指していて、それも僕らの考え方とは違うと思った点でした。

見学先の学校でも、僕らができるだけインクルーシブで、支援級と通常級の隔たりがない学校生活を願っていることなどもお伝えすると、すぐに実現は難しくとも先生方も同じようなことを課題として感じているようでした。地域性との兼ね合いなどもありますが、先生とそんな話ができたことも良かったです。

依里さん 学校見学の日だけでは見えないことも多いと思うんですよね。そうすると漠然とした不安だけが残ったりします。なのでできるだけたくさん見るようにしました。学区内、学区外、支援校、あとは隣の市の支援級も2校ほど。

コロナ禍前だったこともありましたが、学校公開の日だけではなく運動会の日にフェンス越しに見学したりして、なるべく普段の様子を見るようにしました。行事などは学校のカラーがとてもよく出るんです。例えば運動会では、支援級の生徒たちがどんな風に競技に参加してるのかなど、いくつも見ていると比較対象ができていきます。息子にとってどういう学校が適しているのか、見学を重ねることでその判断材料が増えていったと思います。


行きたい学校の先生と話せる機会には積極的に声掛けをする。

学校公開だけではく、運動会などの機会を逃さずに、
できるだけ普段の様子をみて比較する。

「無理です」と言っていた相談員も変化

依里さん 学区外に見学に行けたことから、少しずつ物事が動いたように思います。学区外の支援級と支援学校を見学した上で、我が家は支援級を希望することに決めました。近くに息子が通った幼児園があり、知ってるお友達やお母さんたちがいることも心強く感じたんです。

当初、越境入学は前例がないので無理ですと言っていた教育委員会の方も、夫婦で何度も足を運んで相談していく中でとても協力的になってくれました。私は緊張してうまく話せなくなってしまう方なので、夫と一緒だったのが良かったかなと思っています。

悠司さん なかなかうまくいかなくても、相談員の方には「一緒に考えてもらいたい」という姿勢で話すようにしていました。前例がないことは担当者の方のせいではないので、その人にぶつけても仕方ないですし、「どうしたら事例を作れますかね?」と相談を続けていくうちに、親身になって協力してくださることが増えていったんです。

依里さん 学区外を希望する申請書も、「何としても通しましょう」といって一緒に文章を考えてくれました。あと、後から知ったことですが、全く同じパターンの相談が他のご家庭とも進行していたそうで、そのことにも助けられたかもしれません。結局その方も同じ学区外の支援級で同級生になりました。


行きたい学校に入る方法を探るために、
相談員と一緒に同じ目的に向かって考える。

子どもにとって「ベスト」よりも「ベター」

依里さん 入学したらコロナ禍になってしまい、通常級との交流の機会はほとんどなかったのですが、やっと今年から月に一度の交流と、遠足や課外授業にも一緒に参加できるようになりました。いろいろ一喜一憂することもありますが、それでも息子の成長はすごく実感しています。

この前、運動会でソーラン節があったんですけど、みんなと一緒にばっちり揃っていて、最後に退場していく時には自分の子を見失うほど他のお友達と溶け込んでいました。時間は掛かるかもしれないけど、彼なりに今の場所でコミュニティを形成しようとしているんだと思います。

悠司さん 妻は本当に一生懸命なので、年に一度の学校アンケートにも細かく希望を書いたりしていました。支援級にもいろんなお子さんがいるので、国語と算数は習熟度別の内容にしてもらえるようにお願いしていたのですが、それも今年からやっと叶ったんです。彼女がいろいろ調べたり情報を得てくれることで、今の状況に繋がったと思います。

依里さん 我が家の場合はできるだけ夫婦で一緒に取り組みましたが、もしも一緒に動けなくても、情報を集めて「これについてどう思う?」とお互いの意見をすり合わせることが大事だと思います。うちも夫と意見が違うことは多いですが、彼は彼、自分は自分と思って、息子にとっていい方を考えること。私が正解を求めて思い悩んでしまっても、「トライ&エラーだよ」と言ってくれる夫の言葉に、ベストではなくよりベターを選ぼう、と気付かせてもらいました。



夫婦それぞれの得意を生かし、意見をすり合わせながら
一緒に就学活動に取り組む。

様々な方の就学活動を知ることで、ひとりでは”どうしよう?”となってしまいがちな就学活動も、みんなで知恵を出し合い、“こうしよう!“と思いを新たに、新しい一歩を力強く踏み出せるのではないでしょうか?次回も、ぜひご覧ください。





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