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小説『阿古の吾子』

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統合失調症の阿古あさが主人公の小説です。続いています。
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記事一覧

阿古の吾子(七)

 そしてチャウちゃんはいなくなった。退院が決まったのだ。  その日のお昼過ぎ、チャウちゃ…

みんく
5か月前
6

阿古の吾子(六)

 ガチャ。ガチャガチャ。スタスタスタ。ガチャ。ガチャガチャ。スタスタスタ。ガチャ。ガチャ…

みんく
1年前
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阿古の吾子(五)

 それは冷たい夏の始まりだった。冷房が効きすぎているから。やはり味に難ありの朝食を済ませ…

みんく
1年前
4

阿古の吾子(四)

その日。  つながれている。ベッドの上で。手足を動かそうとするが、動かせない。小学校の時…

みんく
1年前
4

阿古の吾子(三)

 背筋が寒くなる。今になって。狙われているのは私かもしれない、という不快な選択肢が一気に…

みんく
1年前
6

阿古の吾子(二)

『シセツ』の朝は早い。平日の午前と午後に一つずつ異なるプログラムを行う。一日中参加しても…

みんく
1年前
4

阿古の吾子(一)

「兄ちゃんもおかしいと思うだろ!なぁ!」 初老の男性が声を張って、こちらを見て同調を迫っている。 (兄ちゃんじゃなく、姉ちゃんなんです) と反論する気力もなく、阿古あさは「はぁ。」とどちらとも取れぬ、曖昧な相づちを打った。胸のサイズは名前のイニシャルと同じAA。蛇顔でおかっぱに全身黒の服。性別を間違えられるのも当然かもしれない。慣れたことなので、あまり気にはしていない。 声がしたのは、スーパーの青果売場。あさはシャインマスカットを手に取り、買うか買うまいかで逡巡していたところ