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ダイナミックレンジ

 ダイナミックレンジ。音響や映像機器関連で使われる用語だ。
 再生可能な信号の最大値と最小値の比率。
 聞こえる音の周波数の幅とか、記録可能な光の明暗の幅のこと。

 映像の場合、表現できる露光(陰影)の範囲を表す指標になる。ダイナミックレンジが狭いカメラで撮影すると、白飛びとか、黒くつぶれる画像が生じやすくなる。

 料理できる光の最大値、最小値とともに、どれくらいの細かさで明暗を読み取れるかというのも重要なポイントになる。
 私たちが見ている物の形というのは、目で見ている限りは光の明暗によって印象が変わる。
 逆光で影になった人の顔が、一様に真っ黒くにしか見えなければ表情を探りようがなく、その人の感情も伝わらなくなる。
 しかし、明け方の少ない光の中でも、微妙な光の強弱を記録できるカメラがあれば・・・
 例えば、フィラデルフィアの夜明け前。薄暗がりの中、ロードワークに出るロッキー・バルボア。彼が腰を落とし、前かがみに靴の紐を結ぶその横顔の繊細な陰影を写し取ることができるカメラがあれば、映画の人物描写力に大いに貢献するだろう。

 今、映画用カメラ機材は、アリフレックスというフィルム時代からの老舗ブランドと、デジタル時代に登場して人氣を得ているREDというブランドが大きな2大勢力として存在しているようだ。

 私が前に勤めて居た会社は映像制作会社で、映画も多数手がけている。踊る大捜査線なども作っているのだが、その現場に行ってみるとREDが使われていた。プロデューサー曰く、今はREDが多いとのことだったので、ああ、REDがいいのだな・・・くらいに考えて居たが、調べてみるとアリフレックスとREDでは画作りの狙いが大きく違う事がわかってきた。
 REDは、6K、8Kと画像の解像度を上げていく事で表現幅を広げるというコンセプトで設計されているようだったが、アリフレックスはこのダイナミックレンジに重きを置いて居た。
 解像度では、REDが全くもって優れているが、アリフレックスの方がダイナミックレンジの広さで、豊かな階調を持って、美しい絵作りをしているのだと言う。
 なるほど、今年度のアカデミー賞候補作の中で、アリフレックスで撮っている作品を並べられると、うむ、味がある絵の作品が揃っている。
 絵が、カチッと、カリカリとしていなくて、柔らかさというか、フィルム時代のテイスト・・・丸みというかニュアンスがある。それは、ダイナミックレンジ、特に暗部の階調の繊細さに由来しているのだなと思い至る。

 さらに、自分が好きな最近作はどちらを使っているのか・・・と思って調べてみた。私が昨今一番映像的に刺激を受けたのは、「ARRIVAL」日本タイトル「メッセージ」という2016年の作品だが、この作品のメイキング映像をYoutubeで探し出して見ていると、チラチラと撮影カメラが映っている。その形状を用心深く見ていると、どうも、アリフレックスのようだ。ARRIのロゴが見える。(この記事トップの写真参照)

 「ARRIVAL」はSF作品だが、なるほど、わざとアリフレックスでそのサイファイナストーリーを撮影してゆくという、そういう贅沢さがまた、みるものを魅了していたんだなと再確認する。
 「ARRIVAL」では、宇宙船や、宇宙人との交流、オレンジ色の防護服などが目を引くが、一方で、夜明けの水辺の主人公の住まい。子供の寝室など、薄暗がりで進行する重要なシーンが印象に残っている。そのシーンでは俳優の繊細な演技が要になっている。あの俳優たちのパフォーマンスを記録するにはアリフレックスがふさわしかったのだ。

 こんなことを書いているのには理由があって・・・次回、制作に関わる映画は、どんな機材で制作するのがふさわしいのかと。そんな課題があるからだ。

 ちなみに、ダイナミックレンジを、映像の方ではラティテュードともいうらしい。こちらの単語の方が、フィルム時代の映画学校でも聞いた記憶がある。笑 高野先生が言っていた記憶あり。
 
 

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