パンフォーカス。手前から奥までピントが合っている!コカコーラで学んだ被写界深度

パンフォーカスって、奥行きがある画面になるの?

『パンフォーカス』:画面内の被写体において、手前から奥まで全体にピントが合っている状態。

 そう言えば、僕が映画学生の頃は、教授も生徒も皆、パンフォーカスを連呼していたように思う。もう、30年前だけど。笑 今ではあまり聞かなくなった。それよりも今の流行はバックぼけぼけですよね。

 「パンフォーカス撮影すると画面に奥行きが出る」って授業で教授が説明をしていたけど、「そうなのかなあ?」と当時、納得できずにいた。「奥行き」という言葉の定義が異なっていたのかもしれない。
 「奥行き=手前と奥を感じさせる」ということなら、手前にピントが合えばバックがボケて、奥にピントが合えば手前がボケる・・・その方が手前と奥を意識するから、奥行きの表現になるよなあ。手前も奥も全部パキッと見えていたら、一つの平面として成立しちゃうから奥行きを感じられないじゃん、と、考えていた。

視線誘導と被写界深度

 僕が映画学生時代に作った短編映画では、パンフォーカスの逆で、画面内の一部にしかピントが合っていないようなカットを多くするように、撮影担当の学友とも相談して撮影して行った。

 映像は、視点誘導だ。
 このカットで見せたいもの、次のカットで見せたいもの。作家の狙いがある。少なくとも自分にはそれが明確にあった。まあ、当たり前のことですなんですが。笑

 画面の中で、手前から奥まで全部にピントが合っていたら、どこを見ていいか直感的に判断できない。それで、ピントが合っているところと、合っていないところをしっかり作る。そうすると観客は画面の中でピントが合っている部分、すなわちきちんと像が結んでいる箇所を自然に見るようになる。
 視線誘導のテクニックには他にもやり方がある。光の明暗で視線を誘導する方法や、色の使い方、画角の撮り方など。でもこれらはあからさまになるとどんどん映像が漫画チックになりやすい。ピントの誘導がいちばんナチュラルだと思う。

 撮影技術で、このピントが合う範囲のことを「被写界深度」という。ある対象物にピントを合わせた場合、その物体の位置から前後どれくらいの距離までピントが合うかを示すものだ。
 カメラの前に居る人物の顔にピントを合わせるとしよう。そして、その人物のすぐ後ろにいる人物の顔もピントが合って見える。という場合をケース1と呼ぶことにるす。もう一方で、一人の人物の顔にピントを合わせたら、その後ろに立っている人物の顔のピントはボケてしまっている、ということもある。ケース2としよう。この場合、ケース1より、ケース2の方が被写界深度が浅い、という。

 被写界深度は、一般に、絞りの値を小さくする(絞る)ほど深くなる。つまり、絞れば絞るほど手前から奥までピントが合うようになる。遠くを見る時に目を細めるとよく見えるの例えを出すと分かりやすいだろうか。
 例えば、あるカメラで撮影する場合、同じ条件の被写体を、絞り値を4で撮影するよりも絞り値11で撮影した方が、ピントが合う前後幅が広くなる。

コカコーラTVCMの撮影現場すごかった

 僕は映画学生の頃、コカコーラのTVCMの撮影現場にバイトに行き、そこで被写界深度の浅い画というものを知った。コカコーラの現場では、基本バックぼけぼけで撮っていた。確かにそうやって撮ると人物がいい感じに浮き出て、綺麗に撮れていた。これいい!!
 (もちろん、バックぼけ以外にもいくつかコツがあるのだが)
 で、コカコーラの現場でパクってきたテクニックをすぐに学校で制作する課題に活かしたら、その作品は映画祭で撮影賞をもらった。笑

 バイトの現場は、1989年オンエアのcity youth と呼ばれるシリーズの撮影現場。川原亜矢子ちゃんとか、東幹久くんとかも来た現場だった。当時まだ無名。
 カメラマンは小暮徹さん、そしてクリエイティブディレクターはマッキャンの坂田耕さんという、知る人ぞ知る超大御所スタッフの現場だ。こういう現場の中で色々と覗けたのはとてもラッキーだった。ちなみにこのバイトに呼んでくれた大学の先輩からは、その後も大変良くしていただき、その先輩が立ち上げたソニーグループの会社でも働くことになった。

 今ではそうでもなくなったけれども、当時、「コカコーラのTVCM」といえば、TVCMの王様のというような存在だった。キレイ、おしゃれ、オンエアの回数もダントツ。タレント志望者はみんな出たがる。おかげでそのオーディションはすごい数の人でごった返す。

今、パンフォーカスで撮る

 今は、一眼レフなんかでもやたらとバックをボカす性能を強調するけど。
 そういう時代だから、逆にパンフォーカスが効く演出の映像を作るっていうのも、面白いかもしれない。
 でもね、バックがボケるということは、バックの作り込みが手薄でもそんなに目立たないということで、逆にパンフォーカスで全部にピントが合うと背景の作り込みまでバッチリ氣にする必要があるって事になるのかもしれない。そうすると、制作予算がアップしますなあ。

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