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『モノの失くし方』
みしまは、おとなで賢い男の子でした
ある時から、みしまは泣くことを止めました
泣くなんて
何だか子供っぽくて意味のないことだし、
何よりカッコ悪いことだと思ったからです
もちろん、泣くのを止めたからと言って
悲しかったり嫌なことが
起きない訳ではありません
でも、そんな時でもみしまは泣きませんでした
そしてその代わりに、みしまは考えました
何か泣きたくなるような事が起こるたびに、
みしまはたくさんあれこれ考えて
納得することを覚えました
友達とケンカし、絶交されてしまった時も
あの子が欲しいモノを僕が持っていなかったんだ。ただそれだけの事だから、誰が悪いとかじゃないんだ。悲しいけれどこれはしょうがないことなんだ、きっと。
と考え、納得しました
大好きなアイスクリームを途中で落としてしまった時も
僕はこのアイスクリームのおかげで嬉しい気持ちになってた。でも、アイスはいずれ溶けちゃうし、食べたら無くなっちゃう。そんなものに自分の気持ちが動かされていたことの方が良くなかったのかも知れないな。
と考えました
それからも沢山嫌なことや悲しいことがみしまには起きました。
それと同時に色んなモノが、みしまから無くなって行きました。
その度にみしまは、
僕に何か足りない所があったんだ
そもそも、僕に必要の無いものだったんだ
誰かがどこかで何かを間違えてしまったんだ
そういうもんなんだ
と、あれこれ考えて納得していきました
そうすることでより「おとな」になれると、みしまは思っていました
でもそうする度に自分の心からも何かが少しずつ欠けていく事には、みしまは気が付いていませんでした
ある時、みしまはクマに出会いました
「やぁ!」
「やぁ、僕はみしま。君はどこから来たの?」
「さぁ?あんまり覚えてないや。でも君の友達になりに来たのだけは覚えてる!」
「そっか」
そのクマは人形のようにずんぐりむっくりした体で、ふわふわな毛で覆われていました
でもその目には、動物らしい鋭さと輝きがありました
それでもやっぱり、体の所々から綿のようなものが飛び出ているようだったので、みしまにはそのクマが人形か動物なのか分からなくなりいずれ考えるのを止めました
じっさい、そんな事がどうでも良くなるくらいクマはへんてこなヤツだったのです
クマはよく笑い、よく泣き、よく怒りました
忙しいやつだなと、みしまはクマのことを面白がりました
そうして気が付けば、2人は最初クマが言っていた通り「友達」になっていて、何をするにも一緒な程仲良しになりました
ある日、またいつもの様にクマが泣いている所を見つけたので、みしまはその隣に静かに座りました
なぐさめたり、無理やり笑わせようとしてもムダなのは、それまでのクマとの経験から知っていたからです
泣いているクマの横で遠くを見つめてボーっとしながらみしまは、初めてクマにあることを聞いてみました
「ねぇ、何でいつもそんなに泣くの?泣いてどうにかなるの?」
「・・グズッ・・・え?」
クマは泣きながら聞き返しました
みしまの聞きたい事が分からなかったからです
「・・・だって、泣いたって悲しさが心からすっかり無くなる訳でも無いしさ。次に進める訳でも無いじゃないか。だったら・・・さ、なんで今自分が悲しんでるのか考えた方がよっぽどいいじゃないか。自分と向き合ってみるんだよ。そうすればそんな悲しい事がまた起こるのを防げるし、理由が分かればそんな悲しみも薄れるってもんだよ。」
「………」
そんな質問に対してクマは泣きじゃくりながら、それでも少しずつ落ち着きながらこう答えました
「・・・僕は味わってるんだよ」
「何を?」
「何って、『今』をさ。」
「どういうこと?」
みしまは訳が分からず聞き返しました
「何でこんなことが自分に起きたんだろうって考えて、悲しさに向き合った方がいいって、きみは言ったね。」
「うん」
みしまはクマから視線を逸らしてうなずきました。
「でもこれが僕にとっての『向き合い方』なんだよ。」
「反省したりする訳でも、何か次にいかそうともする訳でもなく、ただ泣きじゃくる事がかい?」
「そうさ」
クマは続けました
「悲しい事だけじゃあない。嬉しいことも、辛いことも、ワクワクすることも、怖いことも、ただそのまんまで受け止めていたいんだよ。」
「それが『今』を味わうってことなの?」
「僕にとっては、ね。」
「ふーん」
「それにさ」
クマは続けます
「悲しい時にちゃんと悲しめないのはそれこそ悲しい事だよ。ちゃんと悲しんでこそ、その次に進めるのさ。」
「その次って??」
「何でも聞くねぇ、きみは。」
いつもより少しばかり鋭い目で、
クマはみしまのことを見つめました
「悲しみの次には嬉しさが待ってるはずなんだ。」
「え?」
みしまはますます戸惑いました
「だって嬉しいことじゃないか。失くしてそんなに悲しくなれるほど、すてきなモノに出会えたんだよ?何かを失くして悲しむってのは、それを失くすまでの時間がどれだけ素敵なモノだったか知れるチャンスでもあるんだ。」
みしまはクマの言っている事が理解出来たような、出来なかったような、何とも複雑な気持ちになりました
「・・そっかぁ・・・・」
みしまはぼんやり呟きました
そしてクマに憧れました
でも、みしまは自分がクマみたいになれない事も分かっていました
悲しいことが起きた時にそれを喜ぶなんて
頭では理解できても、
あまりにも難しい事だったからです
それでも、今クマが話してくれたことを
みしまはこれから先ずっと覚えていようと思いました。
こうしてみしまは
これまでよりほんの少しだけ
弱く、もろい人間になりました
でも、それと同時にみしまは、
誰かに寄り添う強さも得たのでした
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