開闢宰相楊廷和は復明の救世主となるか(第3回)

 さる9月29日、大明復興委員会(大明委)第2代首輔(代表)選が行われた。結果は楊廷和(敬称略)が単独で得票率50.5%を獲得、決選投票は行われずそのまま首輔への就任が決まった。
 楊廷和は翌30日の就任式後の記者会見で早々にYouTubeチャンネルと明華社通信の公式サイトを設立したことを発表。公約通りのSNS活用に記者団を驚かせた。
 本稿は明華社通信の公式サイト(note)設立後初めての記事として執筆するものであり、首輔選の分析及び今後の大明委の行く末を論じるものである。
 本稿では、候補者4人の首輔選での動きと当選した楊廷和による新体制の行く末を論じたいと思う。

それぞれの首輔選
 まず、首輔選の動きを整理しよう。
 現職の張居正はハルイ派の領袖。同派は彼に協力的(迎合的)な官僚群である。三楊など有力な官僚が多数所属しており、委員会内で最大の派閥を形成しているが、必ずしも張居正に共感しているわけではなく、機会主義的に彼の派閥に味方しているというのが実態である。
 事実、同派所属のはずの李賢が独断で網浜さんを擁立した際にはハルイ派所属の官僚多数が張居正の責任を追及し、同派を離脱した。この時点で首輔選前委員内の6割を占めていたハルイ派は3割まで落ち込んだ。
 張居正は首輔選にあたり元ハルイ派から無所属となった官僚群の再抱き込みを狙った。官僚は変化を嫌う。首輔が変わることのエネルギーと現職続投の安定感を比べたとき、どちらが自分たちにとって良いかを前面に押し出して官僚たちに説いて回ったという。実際、彼の再抱き込み戦略は功を奏し、過半数に一歩及ばなかったものの相当数の官僚を自派につけることに成功した。
 次に夏原吉である。先述のように財政再建論者である夏原吉は戸部内に自身の子飼いの部下が多い。戸部関係者と海瑞ら無派閥清廉派を中心に票の積み増しを狙った夏原吉だが、彼らの唱える党内財政の透明化や組織機構改革は張居正執行体制への露骨な否定を意味しており、張居正が再登板した際に報復人事が行われるのではないかという懸念から、旗揚げ時の賛同者以上に支持者を伸ばすことは出来なかった。
 唯一の非明人候補である網浜さんはどうだろう。彼女(李賢)の戦略は地方回りだった。周知のとおり大明委は政権獲得後速やかに日本の統治を開始できるよう全国を8つの地区に分け、総督をトップとする地方組織を整備している。他の3候補が本部から全国に対して首輔選協力への要請を呼び掛けるに止まったのに対し、網浜さんは直接全国を歩いて回った。もとより非明人であり、掲げる政策もフェミニズム色が強かったため、票数の伸びには直接結びついたとは言い難いが、委員内での好感度はかなり上がったようだ。彼女の今後の活躍に期待である。
 最後は当選を果たした楊廷和の選挙戦略について見てみよう。
 楊廷和は持ち前のSNS戦略を大々的に展開、LINEやTwitterで委員だけでなく、支持者や一般市民にも自身の活動をアピールした。マッチングアプリや匿名掲示板も利用していたというから驚きだ。網浜さんの地方回りは堅実で確実な戦略だったが、楊廷和の選挙戦略は質より量、正確性より勢いとまさに情報化社会に適応した行動であった。事実首輔選終盤になると圧倒的知名度から既に楊廷和新代表が内定したかのような空気が漂う。これで楊廷和が新首輔とならなかったら大明委自体への批判が巻き起こりかねないと去就を決めかねていた委員の票が一気に楊廷和に流れたのである。
 情報量とコンテンツ性で外堀から埋めていく、楊廷和の戦略は見事はまり首輔選に勝利した。大明委結成から2年と10か月、途中路線対立で要職を退けられてから1年、復明勢力合流前から見ても大礼会から初めての代表がここに誕生したのである。

大明委の今後の展望
 9月30日に大明委新首輔へ就任した楊廷和。ここからは彼が率いる新体制大明委の今後の行く末を論じよう。あくまで筆者の個人的な感想であることはご承知いただきたい。
 まず、委員内部の情勢から論じよう。
 周知のとおり大明委は復明勢力の寄り合い所帯から始まった。これまで別々に活動していた勢力が現代での復明を現実のものとするために大同団結したのが大明委である。
 しかし、合同前の勢力がほぼそのまま派閥として温存されているのが現状だ。かつては初代首輔張居正の実務優先政策の下で、各派閥は執行部の方針に賛同する主流派と非主流派の切磋琢磨、政権交代に昇華されていくのではないかという意見があった。
 しかし、今回の首輔選で派閥単位での活動がまだまだ健在だということが白日の下に晒された。脱派閥を掲げ自派推薦勢力を超えて投票を呼び掛けた夏原吉、網浜さん両名がほとんど票を伸ばせず、委員内第3勢力である大礼会から新首輔が誕生したことがそれを如実に表している。新首輔楊廷和には未だ委員内に根強く残る派閥文化にどう対応していくのかが問われている。
次に、組織体制の正常化である。既に夏原吉が訴えてきたように委員内の財務制度、権力構造は相当いびつである。今まで委員、支持者共に争点、関心の的とはならなかったが、首輔選を通して組織改革の声は内外から高まっている。特に政党交付金の使途開示及び閣議の透明化は喫緊の課題であろう。
内憂外患の「内憂」とも言えるのが大明委のライトな支持層である。先の参院選、地方選では岩盤支持層に彼らライト支持層の協力を得ることで終盤の躍進につながった。SNS上での広報活動に協力的である点でも知られている。しかし、最近になって彼らの問題点が明るみになってきた。
 彼らの多くは学生で構成されており、高校世界史やWikipediaレベルの知識で中国の歴史や大明の評価を下しているのである。
 実務優先の張居正体制ではこの問題は明るみに出なかった。しかし、正統性や道義的正しさを重視する楊廷和(大礼会)は彼らを苦い顔で見る。党勢拡大のためには彼らライト支持層を取り込むことが重要である。しかし、浅薄な知識で大明皇帝を暗愚と断じてキャッキャする有権者を支持層として取り込むこともまた、復明の妨げになるというジレンマを抱えているのである。
 一方の「外患」に当たるのが、「諸夏主義」である。諸夏主義についてここでは詳しく述べないが、中原の外で活動する活動の中で最近勢いを増している勢力である。中華人民共和国を解体し、各民族が独立した国家を形成するという点では大明委の主張と重なるところがあるが、諸夏主義では漢族内にもさらに複数の民族があるとしそれぞれの独立を主張している。この点で大明委の国家構想と相いれないのだが、知名度は彼らの方が上である。
 大明委はアジアを中心に支部を展開し対中国共産党偽政権包囲網を展開しているが、諸夏主義者達はアメリカも含めた世界に広く展開している。党勢拡大のためには理論面でより洗練された議論を展開できるよう大明委自体の成長が必要である。

まとめ
 ここまで、全3回にわたり首輔選と大明委の今後の展望について筆を走らせた。大明復興委員会が結成されてはや3年、参院に29の議席を持ち、西日本を中心に全国に地方議会にも多数の議席を持つに至った。しかし、復明はまだまだ道半ばである。倭国の国政を担うにはいずれ衆院への進出もいずれ果たさなければならないし、他国の議会でも多数派を形成し、復明包囲網を構築しなければならない。それは一朝一夕で成し遂げることは出来ないであろう。
 首輔選からはや1か月が経とうとしている。この間楊廷和は内外の支部を廻り、新首輔就任のあいさつを行いつつ、暫定的にではあるが活動を展開している。新体制の調整にもめどがついたことを発表し、週明けには新閣僚を発表するという。
 今後の復明活動にぜひ期待したい。(顧炎武)

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