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私の一番好きな場所

高校2年生の時の話。
付き合っていた彼氏には別れを告げられ、
元友人(同性)にはよくわからない暴力をふられ、
私の心はすさんでいた。

父が亡くなって1年。
中高一貫校に通っていたから、
中学時代にグループができあがっていた。
今さら学校を替えることはできない。
父はいなくて、こういうときに何かしてほしいのに…と、私は八方ふさがりだった。

特に元友人のことが厄介だった。
2度ほど殴られた(中学生の時もモノを壊されたことがあった)が、「あなたが悪いのよ」と言われ、
私は、“怒らせた自分が悪いんだ”と
自分に言い聞かせていた。

その為、母にも大好きな担任の先生にも相談できず、家出騒動(未遂)を起こしてしまったのだった。

その後、母は自分の実家に連れて行ってくれた。
とはいえ、自宅から車で5分なんだけど。
でも山の中なので、自転車で行けないんだけど。

祖父は
「軽トラ乗り!栗拾いに行こら!」
と声をかけてくれた。
ケータイの電波がついに届かない山の中。
着いたのは栗がたくさん落ちている森だった。

「これ、全部拾っていいの?」と聞く私に、
「全部おじいちゃんの土地やからなぁー!」
と答える得意げな祖父。
私はトングとバケツを使ってたくさん拾った。

ふと小さい頃を思い出した。
母の実家に遊びに行った時、よく祖父は
こっそりと喫茶店に連れて行ってくれた。
耳が悪くてあまりしゃべらなかった私。
静かに食べるからと連れて行ってくれたらしい。
妹はおしゃべりで連れて行かなかったとか。
(妹には一生秘密だ)
そこで祖父はよく宇治金時を食べていた。

栗を拾っている間、特に何も聞かない祖父。
母から元友人のこと、家出騒動のことを聞いていたはず。でも詮索することは全くなかった。
そばにいてくれるだけで、私は安心した。
その後、母の実家に戻って食べた栗は
めちゃくちゃおいしかった。

あれから14年も経ったか。
今年もあの場所に栗は落ちてるのかな。
祖父は亡くなって、母の実家は誰も住んでいない。
小さい頃によく連れて行ってもらった喫茶店は
もう跡形もなくなってしまっているし、
栗拾いに行った森の道順も忘れてしまった。

それでも祖父と栗拾いしたあの思い出のあの場所は
私の一番好きな場所。

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