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夢で逢えたらいいよね

「おれ、大学辞めて地元に戻る」

「今まで連絡しなくてごめん」

「お母さんから連絡があって、ずっと言えなかったけど鬱病って打ち明けられた。働けなくて、学費を払うのが難しいから、実家に相談するって。」

「お母さんが病気ってこと、お父さんからも連絡があった。おれが3歳の時離婚したから、18年振りに話したんだ」

「大学に行っても勉強したいと思えることがなくて、何となく受けている授業のためにお金を払ってもらうのって、意味の無いことだと思う」

「だからおれ、地元で飲食の仕事につくんだ」

「今月いっぱいで東京から離れるよ」

好きな人からの唐突な連絡は、私の思っていたよりもずっと、辛いもので、でも本人の決断の為に悩み苦しんだ時間のほうがきっと辛かったのだろうと思って、無力な私は、ただ相槌を打つことしか出来ませんでした。

連絡がない間、ああ私を好きではなくなったんだ、でも人間そういうこともあるよねと言い聞かせ、ご飯を食べ、酔いに頼って眠りにつきました。でも私、あなたが私を好きじゃなくなるよりも、あなたが遠くに行くほうがずっと、苦しいみたい。

私のこと、好きじゃなくてもいいから、近くに居て欲しかった。同じ東京の空を見ているんだとか、私の歩く道の先にあるどこかのコンクリートの上で、同じ街で息をしているんだとか、そういうことで胸が満たされるんじゃないかと思う。東京から遠く離れた、とてもとても寒い街に、あなたが行ってしまうこと、私にとっては本当に、辛いことみたい。

寒くなったら、一緒に雪を見てみたかった。
あけましておめでとうと、目を見て言いたかった。
4月に22歳を迎えるあなたの誕生日を、私の家で、あなたの家でもよかったけど、ケーキを一緒に食べたりして、おめでとうと伝えたかった。
春の匂いを、あなたと手を繋いで感じたかった。
もう一度夏が来たら、あなたと過ごせる2回目の夏は、海に行ったり山に行ったり風を切って車を走らせたりしたかった。
そして秋が来て、私の22歳を祝って欲しかったよ。
特別なことがなくても、お酒を飲んでご飯を食べて、そういう毎日の生活を、あなたと、もっと紡いでゆけると思っていた。

遠くに行ってしまうあなたのこと、私どうして忘れることができるんだろう。できるわけがないのに、身体は忘れなきゃ忘れなきゃと前を向きたがって、それがとても苦しい。

たぶん私、あなたが私の事を忘れた頃、どこか違う土地の誰かときっと幸せになるよ。同じ職場の人と、なんとなくいい感じになって将来を意識して、猫を飼って生活して、結婚して、ウエディングドレスを来て、子どもが生まれて、お母さんになるんだろうと思うよ。あなたもきっと、私よりずっと素敵な人と出逢って、恋をして、いつかパパになると思う。本当に優しくて努力家のあなたのことだから、幸せな毎日を愛おしく思って暮らすようになるんだと思うよ。だけど私ね、私、あなたと一緒に居たかったの、だから今はそういうあなたの明るい未来のこと、憎んでしまう。私のいないあなたの幸せなんて、妬ましいと思ってしまう。

私の好きな人のこと、ここにきちんと記して、私はちゃんと忘れない。この苦しい気持ちも行き場のない憎しみも、ちゃんと刻んで傷にしておくんだ。あなたもだから、どうか、同じ気持ちで、私のこと忘れないで居て欲しい。

頑張ってね、幸せになって、でも私のこと忘れないで。幸せに限りなく近かった私たちの毎日のこと、忘れないでね

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