見出し画像

ヤム、ヤム、ヤム!!

長くてごついヤムイモの山の中に、人がいる。
埋もれるように。
まぎれるように。

画像3

トーゴの首都ロメから内陸に向かって、車で2時間ほどの位置にある町、パリメ。この町はクラフトマンシップの溢れるエリアで、おっとりとした手描きの愛らしい看板がそこかしこに立ち並び、工芸品をつくる工房や染色工房などもある。

画像7

そして、パラソルが咲くひろびろとしたマーケットも。肉、魚、野菜、調味料、衣服、靴、雑貨、生活に必要なものはとにかくなんでも揃う。カテゴリーごとにエリアが緩やかに区切られていて、木のテーブルの上に大きな生肉の塊を転がした肉屋が隣り合ったり、じゃらじゃらとしたアクセサリーの店が続いたり。

画像6

その中のひとつが、無数のヤムイモに埋め尽くされた圧巻のヤムイモ通りになっていた。

巨大な長芋のような形をした「ヤムイモ」は、西〜中央アフリカを中心に食べられている主食の一つで、茹でたり揚げたりして食べるほか、ふかしたのを潰して杵でつき、なめらかでもっちりとした「フフ」にして食べることが多い。

ヤムイモを選ぶ時の目はみな真剣。
ひとつひとつ点検するようにじっくりと選ぶ。

というのもヤムイモの善し悪しは大きさ・太さ・形の良さなどで決まるためで、特にヒゲ根の長いものが質が良いとされているらしい。店では下手をすると大人の腕よりも太くてたくましいイモ達を、たらいにぎゅっと集めて突き刺して立たせたり、長さを揃えて日干しにするように綺麗に一列に並べたりしている。

画像2

ひたすらイモ、イモ、イモ。

通りへせりだすようにずずんと並んだヤムイモの林に圧倒され、イモからイモへとなんだか怖いもの見たさのように目を移しながら歩いていると、不意にイモの山の陰に座り込んでいた店番の女性と目が合いドキリとする。

パリメはトーゴの中でも比較的多数の外国人が訪れる場所だが、写真を撮られるのを嫌う人が多い。店の前を通ってもこちらの緊張が伝わるのか、どうせ買わないのだろうと睨みつけられているように感じる。首都のロメでは言われなかった、子供達の無邪気な「ヨボ、ヨボ!(白い人)」だったり「シナ!(中国人)」といったはやし声もこのマーケットでは何度かかけられた。

ちなみに私には、こんな風にシナ!と呼ばれた時のお気に入りの対応方法がある。立ち止まって相手の目を見てニッと笑い、「ノン、私はジャポネだよ」と言うこと。相手はわざわざ返事が返ってくるとは思わなかったというように目を丸くして、「あ、日本人なの?」と拍子抜けしたり、ちょっとはにかんだりするような表情で返事をする。一方的にぶつけられていた言葉から、何かがつながる感触に変わる。

この対応法はジャーナリストの岩崎有一さんが、アフリカ概論の講義で穏やかに教えてくれたものだ。「アフリカの人は、アジアの人を見るとみんな中国人だと思います。私たちが、アフリカの人がどの国の出身か見分けがつかないように。だからもしも皆さんがシナ!と呼ばれた時は、”私は日本人だよ”と自己紹介して、アフリカに来ているのは中国の方だけではないということを知ってもらいましょう(ニコッ)」
はやし声を責めるでもやり過ごすでもなく自己紹介のきっかけに変え、少しずつでもお互いを知ることを重ねようとする、岩崎さんのこうした姿勢が私はとても好きで尊敬している。

フフを食べさせる店で、つくる工程を見せてもらった。まずキッチンで皮をむいて大きめのサイコロ状に切ったヤムイモを、盛大に湯気を立ててぐらぐらと30分ほど茹でる。そのあと木のうすに入れ、土台をしっかり足で踏みつけながら、長い竿を上に持ち上げずどん打ち込み二人で全身がかりでついていく。リズミカルな地響きがこちらにも浸みてくる。隆々とした腕の筋肉がさらに盛り上がる。大人の仕事かと聞くとニヤッと笑って、いやいや子供達だってつくるさと言う。繰り返すほどに、きめの細かくもちもちしっとりとした美味しいフフになる。

画像4

画像5

手前のまあるいのが出来上がったフフ。三つ指で丸くちぎり、ピーナツソースをベースに、干し魚やチキン、野菜、唐辛子を入れて煮込んだソースにつけてすくい上げるように食べる。もっちりとしながらも、日本の餅よりもなめらかなフフと、魚の出汁とナッツの風味があいまったコクのあるソースが混じり合って喉を滑っていく。唐辛子のペペがじんわりと全身をめぐり、汗がにじむ。YUKIというブランドの冷たい瓶のフルーツソーダで流し込む。

主食だからと気軽な気持ちで美味しく食べていたフフの正体が、持ち運ぶだけで一苦労しそうなずっしりとしたヤムイモを原料に、足を踏みしめ全身の力を込めてつき練り上げられたものだと知って、もし毎日自分で作るとなったらしばらく足腰が立たなくなるだろうなどと思った。

ひとつき、ひとつきの積み重ねによってもたらされたなめらかさをありがたく舌の上で転がしながら、たくましさも一緒にもらったような気持ちになってつるりと飲み込んだ。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?