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アフリカンイラスト×エッセイ

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アフリカの人々の生き方・あり方について思うことを、絵とともに綴ります。今は西アフリカ・トーゴの衣食住にまつわることを中心に描いています。月1回ペースで更新中。
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記事一覧

その壁の向こう側に

三度目のトーゴ訪問の際、事前に現地の友人Passiにリクエストしたのは壁の向こう側を覗かせてもらうこと、すなわち個人宅の敷地内に踏み込ませてもらうことだった。 ‘”OK, no problem.”いつものようにアッサリとした承諾の返事がWhatsAppのメッセージに届く。大きな身体にほのかな笑みを浮かべ、柔らかい目でなんでもなさそうに頷く彼の姿が脳裏に浮かぶ。  プライベートでわざわざ三度も訪れた国は、西アフリカのトーゴの他にはない。穏やかな空気、カラフルな人々、どっしりと

誇りの音 布づくりの静と動ー動編ー

カラコロカラ、カラコロカラ。 とうてい無理だ、私には。 この気高き誇り、軽やかなスピード、阿吽のリズム、砂に吸い込まれる乾いた音、鮮やかさと力強さ、そしてえも言われぬ優しさと。 彼らの発するこの凄まじさ、絵と文章という二次元の世界で表現しつくすなんて、できっこない。 ほのかなオレンジ色のさらりとした砂土を、ぺたんこのサンダルでしゃりりと蹴りながら歩いていくと、スピード感のあるカラコロカラ、カラコロカラ、という音が近づいてくる。素朴な打楽器を打ち鳴らすような、幾重にも重なり

居場所のつくりかた

道端に、木陰を落とす木が一本。 それさえあれば、居場所ができる。 充分に。 初めてのトーゴで、車窓の流れゆく景色から目が離せなかった。道端にいる人々の、いでたちや生活のあり方があまりにむき出しだったから。 ケース1:カニと顎 アスファルトの道路沿い、女性たちが小さなカゴのようなものを3つ4つ地べたに並べて座っている。隣には何かが詰まった大きな麻袋。道沿いに点々と続く彼女たちの存在が気になって車を降りる。 ベナン人ガイドのキキさんが1人に声をかけ、麻袋の中身を見せてくれる

肋骨上げて

ヒトの肋骨は全部で24本・12組。 背骨から胸骨へとぐるりとつながり内臓を守っている。背骨の上から数えて一番下、腰のあたりにお腹に向かって伸びつつ途中で切れて浮いている肋骨が2組ある。それが、第11・12肋骨で浮遊肋(ふゆうろく)とも言う。 へえ。 「日本人は姿勢が悪く、ほとんどの人がこの途切れた骨の先が下の方を向いています。ここを上に向けるようにしてみましょう」 バレエ歴25年、大きな瞳で華奢な体つきの小暮美香先生のピラティスレッスン。ゆっくり呼吸しながらその末っ子のよ

ヤム、ヤム、ヤム!!

長くてごついヤムイモの山の中に、人がいる。 埋もれるように。 まぎれるように。 トーゴの首都ロメから内陸に向かって、車で2時間ほどの位置にある町、パリメ。この町はクラフトマンシップの溢れるエリアで、おっとりとした手描きの愛らしい看板がそこかしこに立ち並び、工芸品をつくる工房や染色工房などもある。 そして、パラソルが咲くひろびろとしたマーケットも。肉、魚、野菜、調味料、衣服、靴、雑貨、生活に必要なものはとにかくなんでも揃う。カテゴリーごとにエリアが緩やかに区切られていて、木

放課後ののどごし・色のさざめき

ゆるやかな眩しさの日差し、9月のトーゴ。 首都ロメから車で2時間ほどの町、パリメ。どこまでも続いていきそうな滑らかなアスファルトの上を、ブロロロ・・・とどこか牧歌的な音を響かせながらバイクタクシーが行き交う。車道の両脇には開放的な小さな店たちが並ぶ。フフなど日常ごはんを提供するレストラン、ビールやヤシの蒸留酒を出すバー、カラフルな生地屋、ミシンを踏むテイラー、スニーカー屋、八百屋、肉屋、雑貨屋、駄菓子屋、ヘアサロン、コスメティックショップ、バイクや車のパーツ屋、マッサージ店、

布づくりの静と動 ー静編ー

「アフリカンプリント」は本当にアフリカンなのか。 色鮮やかでパワフルなアフリカンプリント。アフリカといえば、アフリカらしい、うわーアフリカだ!そんな印象の強いこのプリント生地が、ガーナやコートジボワールなど、アフリカの一部の国で生産内されたものもあれど、マーケットに出回る多くがオランダ産や中国産であると聞き驚いた。いかにも昔からこの地に根付いているかのようだが、ルーツはジャワのバティックプリントで、その後オランダによって研究開発され、大量生産され輸出されるようになったのは1

美の生まれる場所

トーゴ人のナタリー と一日首都のロメ で過ごした。サヤカがきっと好きそうなところを見せてあげる、といろいろな場所に連れて行ってくれた。フライトアテンダントの彼女と初めて会ったのはベナン行きの飛行機の中で、その後一年くらいメッセージのやりとりをし、ようやくトーゴで会うことができた。実際に会うのはまだ2回目なのに、どうしてこんなに私の好みが分かるんだろう、とため息の連続だった。 ナタリーは美しい。しなやかでヘルシーで、いつも口角の持ち上がった明るい表情を浮かべていて、ハッピーな

郷に入らば、ヘアサロン

西アフリカ・トーゴ現地で法人を設立した唯一の日本人、中須俊治さんに「こっちの人の髪型やってみはったらどうですか。郷に入らば郷に従えということで」と言われるまで、アフリカンヘアスタイルにしてみたいと思ったことは人生で一度もなかった。あっさりとした自分の顔立ちに似合うイメージが全く湧かなかったからだ。 その時私たちは、トーゴのパリメという町から首都のロメへ向かう車の中にいて、あと2時間後には中須さんはロメ空港からエチオピア 経由で日本へ、私はそのままロメに数日滞在するために友人

永遠のような茶色の世界で

トーゴ人のPassiがある村に連れて行ってくれた。とても静かなところで、家が立ち並ぶ通りを進んだ先で急に視界が開けた。 湖だった。 私は茶色、特にこげ茶色が好きだ。しっとりした土、深い飴色の木、よく鞣された革、時間が経ってセピア色に変化していくものたち。自然界において、土台を支えるスタンダードカラーは黒ではなく、茶色だと思う。ファッションにおいても茶色はどんな色とも合わせやすく、黒よりも柔らかく受け止めてくれる。 この景色はまさに、私の好きな茶色が広がる光景だった。 取

彫刻オレンジ

トーゴのアベポゾで、とても美しいものを見た。 テーラーのEpifaniの家の近くの、車道から一歩入ると、砂と土の通りが広がる。人通りは少なく、ゆったりと穏やかな空気が流れる。そんな茶色い通りに、彼女は店を出していた。隆々とたくましいパイナップル、つやつやのアボカド、バナナ、マンゴーなどを売る場所として。 彼女の肌はアボカドに負けないくらい、つややかに太陽の光を跳ね返していた。 テーブルの中央には、スレンダーな鉄製のスタンド。まるで小さな帽子スタンドのように先が輪になって

かたち・活きる・並べ方

トーゴに来て、食材そのものよりもその「売り方・並べ方」に目がいくことがたびたびあった。例えば、主食のフフやパットに合わせるソースに欠かせない、唐辛子の「ペペ」。こちらの写真はアグー山という、標高1000メートルほどながらトーゴで一番高い山の上にある、村のひとつにて。形と色の少しずつ違うぺぺを、乾いたトウモロコシや木の棒できれいに区切り並べて売っている。 そうか、こんな風にすれば、わざわざ包装しなくても小分けで売ることができるんだ。色や形の混ざり具合のバランスが綺麗で、少し見

孤独になりようがないごはん

トーゴに初めて行った時、ぜひ日常生活に触れたいと思っていて、それは「ごはんを作って食べるところ」に詰まっているんじゃないかと考えた。そこで、テーラーのEpifaniのお家でドレスのオーダーをした後に、昼ごはんを支度している様子を見てみたいとお願いしたら、1時間後に戻っておいでと言ってくれた。 Epifaniが室内の仕事場でミシンを踏んでいる間、きょうだいたちが中庭で料理に取り掛かる。いや、ここは単なる中庭ではなく、キッチン、リビング、作業場、保管倉庫、洗濯場、遊び場と、多く

空気がたくさん入った服

トーゴの首都ロメにある、アベポゾという町で初めてドレスを仕立ててもらった。アフリカ専門のジャーナリスト、岩崎有一さんの長年の友人である、Epifaniにお願いをした。 ロメのマーケットで散々迷いながら生地を決め、(オランダ製でゴールドの部分はメタリックな光沢のある、大ぶりの花柄に決定)Epifaniの自宅兼テーラーの仕事場に持ち込む。まず、壁に貼ってあるスタイルの見本写真から、どの形にしたいかを選ぶ。(下記写真の右上)モデルはふくよかでナイスバディ、そして全身を覆うようなワ