物語を作りたいすべての人へ



突然ですが、今いる漫画家志望者の99割は商業作家になれないと思う。
なぜなら、漫画家としての売り物を作れていない、売り物の漫画とはどうあるべきかをわかっていないから。

界隈を見ていると、「ストーリー漫画を描いて食っていこうと考えている」漫画家志望者の99割がそもそも「ストーリー漫画」を描けていないなと感じます。



ストーリー漫画とは「物語」です。
物語のない漫画はただの「日記」です。
商業作家になるのなら、それを商品として売ることはできません。
すべてのストーリー漫画は「物語」でなければいけないから。


じゃあ「物語」の定義ってなんでしょう?


まず、「ストーリー漫画」について書きますが、当記事での定義は「ドラマがあること」を「物語」としています。なので今後は「ドラマ漫画」と表記していこうと思います。


世の中で定義されている「ストーリー漫画」にはドラマが無いものも非常に多いですが、それらは「エンタメ漫画」であり、厳密には「ストーリー漫画」とは呼べないと認識を改めた方が良いと思います。
世間では長編をストーリー漫画と区分しがちですが、それは「日記」も「物語」も十把一絡げにしています。それが良くない原因で、まとめてストーリー漫画と呼ぶくせに商業漫画として求められているのは実はほとんどの場合「ドラマ漫画」なんです。

まず、あなたが本当に作りたいのが「エンタメ漫画」なのか「ドラマ漫画」なのか、そこを分析して明確にした方が絶対にいいです。
それには、好きな漫画、目指す漫画を分解して構造を知ることです。

「エンタメ漫画」に「ドラマ性」を足したものが「ストーリー(ドラマ)漫画」です。


つまり「ドラマ漫画」とは何なんでしょう?

アリストテレスの時代までさかのぼると、すべての芸術の定義は「喜ばせること」「教えること」の2つを含むことだそうです。

つまりドラマ(漫画)の本質とは「エンタメ性があり面白く読める漫画に人生の教訓が暗喩されている」ということです。



わかりにくいですね。
これをさらにどんどん分解して説明していきます。


ではまず「エンタメ性があり面白く読める」から説明します。

そもそも「面白い」って、何だと思いますか?
かっこいい派手なガンアクション映画、可愛い女の子の漫画、謎解きミステリー小説……世の中には面白いものがたくさんありますよね。

「面白い」とはズバリ「感情(心)が動くこと」です。
「感情」の語源はラテン語で「掻き乱す」、つまり心が平常心じゃなくなってドキドキワクワクすることなのです。


これが先に挙げた「喜ばせること」の部分、すなわち「エンタメ性」です。
あなたの作る漫画はまず「他人を喜ばせること」を考えなければいけないのです。
他人を喜ばせること、つまり「楽しませること」が欠けている漫画家志望者も多いのですが、それは当記事の本題ではありませんのでここでは掘り下げません。

この要素だけで描いたものが「エンタメ漫画」となります。
かっこいい、かわいい、スカッとする、エロい、グロいなどの単純な感情体験のみを売る商品ですね。最近多いです。


漫画家になるために賞に応募したり持ち込みをしたりすると思いますが、だいたい、大きく「ギャグ漫画」と「ストーリー漫画」で分けられていますよね。ストーリー漫画の中に「学校もの」「バトル漫画」「ファンタジー」などのジャンル分けがあるようなイメージでしょうか。

この場合ギャグ漫画以外のすべてはストーリー漫画と一括でくくられていますが、さっき書いた「エンタメ漫画」は、本質的にはギャグ漫画に近い商品です。
ギャグ漫画は「読者を笑わせるもの」という商品なので、単純な感情を売るだけの漫画はこっちになります。
ジャンクフードやスナック菓子、炭酸ドリンクなどをイメージしてもらえるとわかりやすいかもしれません。


一方で、おなじく食事にドラマ漫画を例えるのなら「定食」や「お弁当」「一汁一菜のご飯」などです。



さて、定食にあってジャンクフードに無いもの、ドラマ漫画にあってエンタメ漫画に無いものとは何だと思いますか?


「栄養バランス」です。



上の方に
「エンタメ漫画」に「ドラマ性」を足したものが「ストーリー(ドラマ)漫画」です。
と書きましたが、「ドラマ」とは、つまり「栄養」のこと。
漫画における栄養とは何かというと、それは「人生への教訓」になります。
もっとわかりやすく書くと「テーマ性」というやつですね。


持ち込みや投稿をした時に「この漫画のテーマは何?」とか聞かれたことないですか?

そう!!
これが「ストーリー漫画を描いて食っていこうと考えている」漫画家志望者の99割がそもそも「ストーリー漫画」を描けていない部分なんです。

つまり「人生への教訓」が描けていないんです。


テーマは込めたよ!!という人もいるでしょう。でも担当もつかず酷評されてその作品は落ちたんじゃないですか?
それはテーマの込め方が間違っていて、編集者さんの求めているテーマ性ではないんです。


じゃあ、編集者さんが求めている「テーマ性」すなわち「人生への教訓」ってどうしたら描けるんだ?と思いますよね。


先ほど「喜ばせること」について書きましたが、ここからがこの記事の本題である、「教えること」についてになります。




あなたの漫画に対して編集者さんから、「テーマが描けていない」「物語が描けていない」「キャラが描けていない」「漫画になっていない」などなど、ひとつでも言われたことはありませんか?

これは全部同じことを言っていて、要するに「人生への教訓」が描けていないということなのです。

「人生への教訓」なんてものをどうしたら描けるんだ?

それは「キャラクター(人物)または世界の変化」という形で描くことが出来るのです。
逆に言うと、今のあなたの漫画では、人物や世界の変化が描けていない。だから落とされるんです。


「ドラマ漫画」の役割というのは、「人生への教訓をエンタメ性で面白く読ませながら読者に疑似体験させて心を動かすこと」です。
ちょっと長ったらしいですね。重要なワードを抜き出すと「疑似体験」です。


ちょっとあなたの半生を思い浮かべてみて欲しいのですが、ドラマチックな人生だったり、人生観が変わるようなものすごい転換期がたくさんある波乱万丈な人生で、なんて人は少ないんじゃないでしょうか。

「ドラマ漫画」というのは、そういう「一人の人間がそれまでの自分を捨てて成長・変化しなくちゃいけない、人生で一度あるかないかの重大な場面を切り取った物語の疑似体験」をさせる必要があるんです。


ほとんどの漫画家志望者の作品がきっと「キャラクターの変化がない」のではないかと思うのですが、つまり、「漫画の初めと終わりで変化したキャラクターがいる」イコール「一人の人間(キャラクター)が変わらなければならないほど人生で重要な何かが起きる物語の漫画」ってことなんです。

そして、そのキャラクターに読者を感情移入させることで、「人生の変化」を疑似体験させる。

これが「教訓」の描き方です。

わかりにくいって?
もっともっとわかりやすく書くと「欠けた主人公が何かを得る話」ならどうでしょうか。


具体的にどう描くんじゃい!とお思いの方もいるでしょう。

それでは、「ドラマ漫画」の構造を順番に書いていきます。



まず

①何かが欠けた主人公がいます


弱点でもいいし、心が満たされない、好きな子がいるけど告白できない、いじめられている、能力が劣る……などなど。何でもいいです。

②ある時、そんな主人公の日常を揺るがす出来事が起こる


日常が壊され非日常に陥るので当然

③主人公は不安・恐怖を感じます



そしてそんな世界の非日常を解決できるのは、主人公たったひとりのみなのです。でも主人公はある理由……①の「欠けや弱点」のせいで、それができない。でも解決しないといけない。主人公は

④迷い、悩みます



この「迷い、悩み」というのがドラマ漫画における「エンタメ性」の部分です。
この世界はどうなるんだ?主人公はやるのか?やらないのか?というハラハラドキドキを描きます。
バトルものなら邪魔をする敵が現れてもいいし、ラブコメなら告白しようとしたらライバルのイケメンが現れてもいいですね。

主人公はギリギリまで追い詰められますが……やがて覚醒!

⑤やるぞ!と勇気を出して決断します


これが「欠点・弱点の克服」、つまり「成長」であり、これこそが主人公の変化の部分であり「テーマ性」なのです。

そして

⑥成長した主人公はライバルや敵、障壁をぶっ倒し、非日常を解決します



非日常に陥った世界は再び日常へと戻っていきますが、

⑦非日常を経て成長を遂げた主人公だけは、以前の日常の自分とは少し違った自分になっているのです




①と⑦を見比べると、主人公が欠けを克服し、成長しています。

これが「ほとんどの漫画家志望者が描けていなかった主人公の変化」であり「テーマ性」であり「人生への教訓」になるのです。



人生でそうそう人が一歩成長する瞬間の起こる非日常なんて体験できません。
が、フィクションの漫画でそれを読むことで、読者は「まるで自分も成長したような気がする」のです。

いい映画を観たあとって、映画館を出たときの自分が映画を観る前とちょっと違ってる気分になりませんか?

まさにそれです!!


あなたはあなたの漫画で、読者にそれを経験させてあげなきゃいけないんです。


それってめちゃくちゃ燃えませんか?

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