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死んだ父に物申す!

やい、父よ。なぜ死んだ。

あなたが死ぬ一週間前に初めて2人だけで長電話したよね。あなたの学生時代の話から、自分は結婚遅かったからお前ははやく結婚して子供作れとか、いつもなら気恥ずかしくて話さないことばかり喋ったよね。

私がカナダに出張で行くことが決まったことを伝えると、苦々しい顔をしてたね。娘は家にいるもんだって、危ないから一生家の外に出さずに大事に育てたかったって言ったこと、忘れられない。私は何も言えなかった。

でもさ、あなたが死んで、一生暮らしていくお金もなくて、その娘はどう生きていけばいいんだろう?恐ろしい社会に出なくて、家で好きなことが一生できたら娘は幸せかもしれない。でも娘が死ぬまで守れないくせに、いきなり死んで社会に放り出すなんて、ひどいじゃない。安全な家しか知らない娘が、イバラの道を歩けると思うの?

ばーか。


お金がないなら家を出て、厳しい社会に出ていかねばならない。知らないおじさんの話を笑顔で聞かなきゃいけないし、癇癪持ちのおばさんの顔色も伺わないといけない。あなたの娘はちょっとは良い容貌だから、3ヶ月くらいは脳死で笑ってれば生きていけるかもしれないね。でも、結局仕事ができないやつはできないやつだ。そんな奴は飯を食えない。

飯以外の自分の世話だってしなきゃいけない。掃除をしても永遠と溜まっていくほこりごみかび。そして、自分の欲求を満たすために勉強して、徹夜で資料作って、笑顔で声を張り上げてプレゼンしなきゃいけない。

なんで教えてくれなかったの?どう自分の欲求に向き合えば良いのか、社会でうまく立ち回るにはどうすれば良いのか。どうして社会の汚いところまで教えてくれなかったの?汚いところを娘に知られたくなかったなら、一生知られるな!隠せば隠すほど、知った時の衝撃は大きい。


あなたが死んで残ったのはボロボロの田舎の家と、解約したいのにパスワードのわからないたくさんのアカウントと、ぎっしり本とノートが詰まった本棚だけだ。

あなたの本棚から見つけたエーリッヒ・フロムの『愛するということ』みつけて読んだよ。泣いちゃった。私はあなたを愛せていたのだろうか。あなたからの愛は父性愛とも違ったような気がする。触れてはいけない、穢してはいけない、聖母を見るような愛情の目だった。

でも聖母なんかじゃなかったね。出来ないことだらけだし、嫌なことあるとすぐあなたに怒鳴るし、家に帰ってこないし。あなたも衝撃だったのかもしれない。聞いてないし、教えてもらってない!そんな気持ちだったのかも。

パスワードを書き留めたノートの隣に、あなたの日記があった。あなたの関心はほとんどお金のことだった。今週はこれだけ資産が増えた減った。目標の額まであとこれだけ道のりは長い、とか。でも私の大学の費用を振り込んだ日だけは、減ったという表現はしてなかったね。

そんな事、聞いてないよ。

頑張れって誇らしいよって。

そんなこと私が家を出る時、全く言ってくれなかったじゃない。

あなたの娘はちょっとずつ強くなっているよ。社会はイバラだらけだけど、それも面白いかもと思い始めてる。完璧でないものに失望するのではなくて、美しさを感じるようになってきたよ。

もし私に子供ができたら、あなたがやったような育て方はしない。けれど、あなたが残した本と日記から、いくつか拝借させてもらうかも。

ばいばい。



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