見出し画像

第73回エミー賞ドラマ・シリーズ部門作品賞ノミネート8作品について解説&予想も

【海外ドラマファンのためのマガジン第111回】

もう本日になってしまいました。9月20日(日本時間)に第73回エミー賞授賞式が開催されます。

ぎりぎりになってしまいましたが、作品賞だけでも予想をアップしておこうかなと思いました。
noteのサークル限定で書いていた予想記事の言い回しなどを修正したものです。

【ドラマ・シリーズ部門】
24ノミネート『ザ・クラウン』シーズン4(Netflix) 
24ノミネート『マンダロリアン』シーズン2(Disney+) 
21ノミネート『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』シーズン4(Hulu)
18ノミネート『ラヴクラフト・カントリー 恐怖の旅路』シーズン1(HBO)
12ノミネート『ブリジャートン家』シーズン1(Netflix)
9ノミネート『POSE』3シーズン(FX Networks)
6ノミネート『THIS IS US/ディス・イズ・アス』シーズン5(NBC)
5ノミネート『ザ・ボーイズ』シーズン2(Amazon Prime)


作品賞には、8作品がノミネートされています。ノミネート対象となるのは、2020年6月1日から2021年5月31日の期間中に、放送、配信された番組です。

ドラマ・シリーズ部門の作品賞を分析するにあたり、ラインナップを眺めていたのですが、あることに気づきました。
この8作品、2つのカテゴリーに分けることができます。

【伝統的な流れを継承するマスターピース】
『ザ・クラウン』、『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』、『THIS IS US/ディス・イズ・アス』。

新時代の風を感じるニュータイプのドラマ】『マンダロリアン』、『ラヴクラフト・カントリー 恐怖の旅路』、『ブリジャートン家』、『POSE』、『ザ・ボーイズ』。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【伝統的な流れを継承するマスターピース】

このグループに入れた作品に共通するのは、過去シーズンも全て好評価だったということです。『ザ・クラウン』と、『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』は、なんと過去シーズンすべて作品賞にノミネートされています。(This Is Usもシーズン4以外はすべてノミネート。)

Netflixの『ザ・クラウン』は、英国のエリザベス女王の人生をドラマ化したもので、シーズン4ではチャールズ皇太子とダイアナ妃の結婚と、その後の生活にもスポットを当てた内容になっています。
存命中の実在の人物の人生を描いていて、忖度のない描写が刺激的でもあるのですが、根本に流れている伝統的なストーリー重視の脚本力が印象的なドラマでもあります。
歴史ドラマの側面も大きいですが、その時女王は何を感じたかという部分は創造するしかないわけで、事実と空想の配分が絶妙です。
母、妻、姉、ひとりの女性としての存在のエリザベスと、女王としてのエリザベスのあり方が、シーズン1では乖離していて、女王自身も悩んでいたのですが、シーズンが進むごとに同じ人物になっていくようで、切ない気持ちにもなっていくし、ちょっと恐怖も感じます。
人間って環境に生かされる部分があると思うので、女王として生きてきた人間のありかたみたいなものは、女王になった人しか分からないはずすが、それを第3者の視点から描けるクリエイターのピーター・モーガンの才能に驚かされつつ惹かれ、毎シーズン配信と同時にイッキ見してしまう物語の力を感じさせるドラマでもあります。

ただ、今後のシーズンでは、ダイアナ妃とチャールズ皇太子の離婚など、さらにゴシップ性の高い部分に物語が突入していくので、そこでどこまで今までの文学性に溢れた脚本力を保てるのか、とても気になるところです。

『ザ・クラウン』は、過去シーズンはすべて作品賞にノミネートされているのですが、今まで作品賞を受賞したことがないのです。
だからこそ、今回『ザ・クラウン』は作品賞の有力候補です。
さっそく結論を言ってしまいますが、ドラマ部門作品賞は『ザ・クラウン』でほぼ決まりだと思います。

Huluの『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』は、マーガレット・アトウッドの小説をもとにした、今、流行のディズトピア世界を描くドラマです。
海外ドラマ界が誇る魅力的な天才女優エリザベス・モスが主人公の侍女ジューンを演じ、シーズン1のときに作品賞と主演女優賞を獲得しました。
内容がセンセーショナルなので、出演する俳優の評価もたかく、今回も10名の俳優が演技賞にノミネートされています。

女性の出演者が多いのが特徴ですが、脇を固めるキャストたちも、海外ドラマ界では主演レベルの女優たちが配役されていることが、演技の高評価の理由のひとつです。
アン・ダウド、イヴォンヌ・ストラホスキー、サミラ・ワイリー、アレクシス・ブレイデル、シーズン4ではマッケナ・グレイスと、そうそうたる女優たちが、出演しています。

日本では現在Huluでシーズン4が配信中で、明日のエミー賞までに見られるのは、第4話までです。

NBCの『This Is Us』は、昔ながらのファミリードラマを、さらにパワーアップさせて復活させた名作です。TV局が制作するドラマの底力を感じさせて、毎回サプライズあり、笑いあり、涙ありの定番のスタイルが安心感を生むドラマでもあります。
定番といっても、物語は、過去、現在、未来を行ったりきたりするので、かなり複雑な構成になっています。
この複雑さを内包しながら、ここまでシンプルに家族の愛を描くという使命を成し遂げているクリエイターのダン・フォーゲルマンの能力の高さが、やはり目をひきます。
ダンを含めた脚本家チームは、一体どうやって登場人物の過去・現在・未来を含めた関係性を把握しているのかぜひ知りたいものです。
相関図を作るにしても、膨大な量になりそう。

キャラクターの描き方も魅力的で、このドラマのファンは、だれかしらひとり、推しキャラがいるもので、その人物に幸せになってもらいたいという気持ちを持ちながら、泣き笑いの感情に揺さぶられていきます。

日本ではいまのところシーズン4までしか鑑賞できないので、対象のシーズン5で何が起きるのか早く知りたいですね。


新時代の風を感じるニュータイプのドラマ】

新時代というカテゴリーにしたのは、このグループにいれたどの作品も、これからの時代のドラマ界を見据えたかたちで、新しいことに挑戦している作品だからです。

Disney+の『マンダロリアン』は、主人公がフルフェイスのマスクをかぶっているので、俳優の顔がまったく画面に登場しない、という前代未聞のスタイル。しかも、登場人物の多くは、クリーチャーかCG処理という、「俳優の仕事は何なのか」という演じるということの新たな定義を作らなければいけない時代の幕開けにふさわしいドラマになっています。
ドラマというのは、俳優だけではなく、脚本、監督はもちろん、技術のスタッフ、特殊技術やメイキャップなどなど、さまざまな職種の人たちが集まって作られるものなんだということを、改めて明確にしてくれるような作品です。
要は、全体を見て評価してくださいということなのかな。最高の脚本と、俳優の芝居、魅力的なキャラクターなどなど、「創造していく」ということの根本を画面上に見せてくれる1話1話に釘付けになるドラマでした。
シーズン2は特にそれを感じて、最終話には悲鳴をあげた人も多いはずです。私も、ひとりで鑑賞しながら、叫んでしまいました。

Netflixの『ブリジャートン家』は、内容的にはラブ・ロマンスなのですが、19世紀のロンドンという歴史モノであるはずの設定に、ダイバーシティなキャスティングを持ち込んだ、というのが画期的です。
当時、歴史的には存在しなかったかもしれない黒人の公爵がいる世界は、かなりファンタジーな状態です。でも歴史に忠実な時代劇ドラマではないので、逆にそのファンタジーさが、ドラマのロマンティック度を上げているというか、より少女漫画の世界のような「ありえない世界」の空想感が、ドラマの魅力を高めている気がしました。
ダイバーシティを貫くために考えた苦肉の作が、ファンタジーというのも皮肉ですが。

HBOの『ラヴクラフト・カントリー恐怖の旅路』は、アメリカでの黒人差別問題と、SFを組み合わせるという内容が、かなりセンセーショナルでした。
また、ラブクラフトという実際にいたマニアックな小説家が描いた世界をドラマでも登場させて、黒人差別の歴史の深刻な問題と、サイエンスフィクション&ファンタジーな創造物が混在する世界が、超絶に刺激的なのです。
CGを駆使した映像はもちろんですが、全体のデザインも芸術的で、色合いやセット、衣装を含めてすべてで作り上げる「この世ではない感」が新鮮でした。
制作にジョーダン・ピールが含まれていて、彼の生み出すホラー感もプラスされ、いろいろごちゃまぜなのに、全体的には統一感があるというプロの仕事をみさせてもらいました。ショーランナーのミシャ・グリーンは、今後注目のクリエイターです。しかも、主演の二人、ジャーニー・スモレット=ベルと、ジョナサン・メジャースが素晴らしい印象を残しました。ただ、残念なことに、シーズン2への更新が決定済みだったのに、コロナ過で制作スケジュールがうまくいかず、キャンセルになってしまったのです。
この影響は、エミー賞にも響くと思います。

FXnetworkの『POSE』ですが、個人的には大好きなドラマでして、私がエミー賞を決めていいんであれば、『POSE』を選びます。でも、シーズン3をまだ日本で鑑賞できないので、なんとも言えないというのが正直なところ。
シーズン3がファイナル・シーズンとなってしまうのですが、悲しい最後なのか、希望を感じさせる最後なのかによっても評価が違うのかなと思います。
シーズン3は、全8話でIMDBでの各話の評価は、9.3,8.5,9.3、8.7、8.2、9.1、8.9、8.7(2021年9月16日時点)という『ゲーム・オブ・スローンズ』レベルの高評価なんですよね。
かなり期待が持てるので早く鑑賞したいです。
このドラマが新しいのは、出演者の9割がLGBTQ俳優だということです。今までは、シスジェンダーの俳優が、ゲイの役を演じることも多かったのですが、『POSE』では、ゲイの役はゲイの俳優、トランスの役はトランスの俳優が演じています。ビリー・ポーター以外のメインキャストはオーディションで決定しているので、ほぼ無名だった方々が抜擢されています。
無名でもトランスの俳優をキャスティングするという心意気で作られたドラマで、今後のドラマ界に革命を起こすための「初」をいくつも量産している歴史に残るドラマだと思います。
主演のMJ・ロドリゲスとビリー・ポーターにもお揃いで主演賞をあげたい!

Amazon Prime の『ザ・ボーイズ』のシーズン2はかなりストーリー的に面白かったなという印象です。一昔前であれば、作品賞にノミネートされるようなテーマの作品ではないのですが(一応ヒーローもの)、新しい時代だからこそ、芸術的、歴史的、感動的なものだけでなく、「クリエイション力のあるものは評価されるべき」という観点で選ばれたのかもしれません。
簡単に言えば、「単純に面白いものを選んで何が悪い」という感じ。
単純にAmazon Prime のロビー活動が功を奏したのかもしれませんが。人気があるドラマであることは間違いないです。
ヒーロー物が子供向けという時代はとっくに終わっているんですよね。
18+だから子どもは鑑賞できない、大人向けのドラマです。ただ、このジャンルで先に作品賞を取るとしたら、『マンダロリアン』かもしれません。


2020年は、新型コロナウィルスのパンデミックのために、3月頃からドラマ制作がストップするという状況に陥りました。Netflixの『Glow:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング』など、シーズン事態がキャンセルになってしまったドラマも多数出現しました。
撮影は秋から冬にかけて徐々に再開しましたが、2021年入ってからようやく撮影がスタートする作品も多く、厳しい状況下で撮影し、放送、配信にたどりついたドラマ中で選ばれたこの8作品。納得のラインナップでした。

サポートは、サークル活動&交流サイトを作る基金に使用させていただきます!