「少々おむづかりのご様子」

これは竹中直人のエッセイ集だ。映画への愛情、それ以上に自己愛に満ちておるのだが、潔く格好良い。

このエッセイ集では著者が活躍し始めた当時の著名人、そうそうたる人物との思い出や彼らへの憧れ、そして彼自身の青春時代が紹介されている。登場する人間たちそして彼自身がとても愛らしく描写されており、竹中直人が自身の人生を愛おしくつないできたことが良く分かる。

作中に竹中直人らしい、素晴らしい一節がある。現在のこのブログで引用がどこまで許されるのか分からないが、是非紹介したい。怒られたら消す。

「しかし、私は昔からよく泣く。たとえば修学旅行から帰ってくると、家の玄関を開けるなり声を張り上げて泣き、両親が事情がつかめず唖然と立ち尽くしていることがあった。それはいったい何故なのか。つまり「どうして楽しい時間はすぐ終わってしまうのか」ということなのである。その楽しい時間に感じたことがとてもいとおしく、自分の心に突き刺さってくる。そのいろんなことが、とてもうれしいと思えることが、何故終わってしまうのか。私はそれがとてもつらく、理不尽なものに感じられたのだ」

これを読んだ当時の私は自身のナイーブさを否定し「モテ路線で頑張らねば」な時期だった。だからこそ「竹中直人と友達になりたい」と思った。
当然友達になれていない。

友達にはなれなかったが、二度ほど彼を見かけたことがある。一度は私がオーディションで受かりかけた舞台を彼が観に来てくれたときだ。「くそう」と思った。
もう一度は公園だ。チョコボールのように真っ黒に焼けていた。彼は公園で自分の子供と遊んでおり、幸せそうだった。これは、こっそり嬉しかった。

生きづらさにつながる自分のナイーブさを肯定できないこともあるだろう。おそらくどんどん難しい時代になっていく。そのナイーブさを自分自身が否定してしまいそうなときは、この著者のようにまずは過去の自分から肯定してやり、物語にしてみるといい。このエッセイ集はそれに役立つ筈だ。
ああ、指先がチクチクする。

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