光を見つけるひと

深夜に思い立ってキッチンへ行き、ごま(sesame)を一気に口に含んだ。大匙一杯くらいだろうか。ゴマ団子を少し前から食べたいと思っていたのだけど、ごまだけだって十分おいしいのではないか。ごま特有の香ばしさとか、噛んだ時にじゅわっと出る油分や、甘み。それだけでも感じたかった。

私はこのところ、夜うまく眠れなかった。恋人は朝が早いので23時頃にはこてんと寝てしまう。そのすやすや顔を見つめていれば1時間は過ぎた。でもそこから携帯でSNSを見たり、いまハマっているパズルゲームを解きだして2時間。夜中の3時になる。恋人が私の光に気づいて手を伸ばしてくる。眠れないの?大丈夫?あ、ごめんごめん。急いで携帯を閉じる。暗闇に戻ると恋人は2秒で寝息を立てる。その音を聞いていると急に不安になる。私はここにいていいのだろうか。だんだん涙が流れてくる。ひとしきり泣くと身体が凝ってきて、軽いストレッチをして、やっとだんだん眠くなってくる。仕事は9時半からだ。家でやるから9時25分に起きればいい。それでも最近はその時間に間に合わないのだ。

4時にもなってくると、のども乾くし、小腹が空いてくる。飲み物はいいけど、ごはんを食べるのは気が引ける。果物ならいいか。剥くのはなあ。そんなときに思いつく。ごまはどうだろうか?カロリーもなさそうだし、なんなら肌にもいいかんじがする。よし、食べてみようか。こぼすのが怖いので、底の深い大匙を手にする。暗闇の中でいりごまが入っている袋を開け、すくって、口に一気に入れた。思ったよりも量が多い。ハムスターみたいな口になっている。たぶん。誰にもみれない。少し口から出そうか。いや、朝に恋人がそれをみつけたら、理由を聞いてくるだろう。それは避けたい。奥歯で少しづつ噛んでいく。これは時間がかかるなあ。床に座り込んだ状態で、カーテンに手をかけて外を見る。まだ月がこうこうと光っている。誰もが寝静まっている。安心しているだろうか。夢を見ているだろうか。その平和の中の一部分に、きっと自分もいるのだ。

私が噛むのに疲れて口を開くと、口の中のごまがふわふわと部屋に浮いて、きれいに整列した。個数を数えてほしいらしく、楽しそうにすこし横に揺れている。私は端から番号を唱えていく。20位をすぎたときに、たぶん500は超えるだろうなあということが分かる。だんだん投げやりで声が大きくなってしまい、恋人が気づいて声をかけてきた。え、何してるの?あ、と私が声を出すと、浮いていたごまが床にいっせいに落ちた。あー。ごまをこぼしてしまったの。ごま?そう、ごま。そう。朝片付ければいいから、いまは眠りなよ。そういわれて私はまた、布団に潜り込む。朝はもうすぐそこに来ている。

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