ありえないようで本当で、笑えるようで切実
コロナ禍明けの今年の夏、カナダではパスポートをめぐって騒動が続いている。春から始まり、いまだに収拾の目途がついていない。
どういうことかというと、カナダ政府が言うにはパスポートオフィスのスタッフが足りないとかで、パスポートを取得するのに半年近くもかかる状況になっている。それにともない、あらゆる混乱が起きているのだ。
実際に起きていることを、申請に直接関連することだけからまずいくつか拾ってみよう:
申請用窓口の予約が取れない。
そのため、窓口で申請する場合は、予約なしで列に並んで書類を提出するようになる。
窓口に並んだ列は長く、都市部ではテントを張って泊まり込む人もいる。
泊まり込んで4日目の人が、まだ列に並んでいてインタビューされていた。
何日も並んでいられない人のために代理で列に並ぶアルバイトで儲けようと考える人たちが現われ、8月くらいには、日中の時間帯は1時間当たり4000円ほど、夜間は一泊8万円ほどなどだった。
もう少しなんとかならないのだろうか。パスポートオフィスのあまりの無対応に、並んだ申請者たちが自分たちで整理券をつくって順番を確保するルールを工夫したという話を初期に聞いた。でも、整理券システムが定着したという話はその後聞かいないので、たぶん、そのとき行列に並んでいた人たちだけで終わったのだろう。
続きをいこう:
行列に並んでいられない場合は、郵送で申請できる。
ところが、郵便申請の場合、窓口申請なら見せるだけですぐに返却してもらえる出生証明書などの原本を、一緒に郵送する必要がある。
郵送すると、今はパスポート発行まで半年ちかくかかるので、その間証明書が手元になくて使えない。
カナダのお役所は情報や書類を紛失するのが得意なので、郵送すると、証明書原本が手元にない間おおいにはらはらしながら過ごすことになる。
いったいなんでこんなことになっているのだろう。
元をたどると:
コロナ禍で旅行者が減ったからといって、パスポートオフィスがスタッフを大量に解雇した。
コロナ禍で外国との行き来が原則できなくなったときに、パスポートを使う必要はないからといって、パスポートオフィスが申請・更新業務をやめた。
コロナ禍も3年目になり、影響もかなり薄れ、そろそろ今年の夏に向けて申請・更新業務を進めなければと思ったときに、スタッフがいなかった。
慌てて雇用しようとしたが、みんなテレワークの味を占めていて、戻ってこなかった。
コロナ明けだから、今まで我慢していた旅行者たちがとうぜんいつにもまして大勢パスポート申請・更新手続きをした。
コロナ中に必要ないからといって申請・更新を止めていた分が、波になってきた。
どうしてこう計画性がないのだろう。コロナだからといって申請・更新業務を止めれば、期限が切れたパスポートの申請がコロナ明けに一気にくるとわかるではないか。その結果、例えば、8月末の旅行のために早めに4月に手続きをした人が、8月頭の時点で何の音沙汰もない。問い合わせても電話はつながらないので、地元国会議員に相談してパスポートオフィスに話してもらったものの、効果はなかったらしい。
現状:
パスポートオフィスのウェブページを見ると、申請・更新書類を提出してから手元に新しいパスポートが届くまでの待ち時間は、通常なら2週間程度のところ、現在は17週間(4か月ほど)プラス郵送時間だそうだ。もちろん、申請窓口の予約は取れない。
パスポートオフィスのウェブページにこんな記載を見つけた(下に訳もつけてみた)。頑張っていることをアピールしているらしい:
(訳)パスポート発給時間を改善中
サービスカナダはパスポート発給時間短縮のために努力しています。現在の処理時間が許容できるものではなく、国民がよりよいサービスを期待していることは承知しています。9月5日から11日の一週間に、サービスカナダは以下をこなしました。
国民に対して発行したパスポート数:50,167
スタッフの残業時間:6,947時間
新規雇用スタッフの人数:59
パスポートというと、日本では旅行を思い浮かべる人が多いが、移民の国のカナダでは、家族や親せきが国外にいることが多い。高齢の親に何年も会っていなくて、今年の夏にやっと会えるはずだったという人だって多い。そうした人たちも、5か月も前から申請しているのに、パスポートが届かない状態だ。エリザベス女王との最後のお別れをしに行きたかったのに行けなかった人もいただろう。
さらに大変なことを耳にした。今年のこれだけの騒動がまだ続いているさなかに、来年は、カナダが2013年に初めて10年パスポートを発行してからその期限が切れる年だ。そのため今年の2倍以上のパスポートの申請・更新が見込まれるらしい。
ありえないようで本当で、笑えるようで切実だ。
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