「名もなき生涯」(テレンス・マリック監督)

「名もなき生涯」(テレンス・マリック監督)。ナチスの時代、オーストリアの農夫、フランツ・イエーガーシュテッターが良心的兵役拒否を行い、死刑に処されるまでを綴っている。いつも通りのマリック映像美に加え、悪に対して信念を貫き通す尊さをストレートに謳っていて素晴らしい。


いきなり卑近な話題だけど、昨日報じられた、加計学園が韓国人受験生を全員不合格にしたとされる不正入試疑惑。お友達の安倍晋三が学園新設時の問題で罪科を逃れたことや、森友学園問題で自殺者を出したことまで遡及的に思い出されて、その長く連なる醜悪さが頭からずっと離れない。


当時、友人が言い放った「もりかけ学園は検察が立件できなかったから安倍さんは無罪」という言葉。おれなんであの時きちんと反論しなかったんだろう、と陰鬱な記憶まで思い出された。この映画はそうした「おかしな空気」に敢然とNOを突きつけた農夫の肖像を描く。


無名の農夫に過ぎない彼の「拒否」は、戦争に対して何ら役に立たないこと、自己満足に過ぎないこと、まったくの無意味であることが周囲からの説得で強調される。信念に基づき命を落とすことが「まったくの無意味」だとするならば、あなたにその信念を貫き通す覚悟があるか?映画はそう問いかけてくる。


収監され、拷問や虐待を受け、手錠をかけられながらも、フランツは「僕は自由だ」という。それが魂の、人間の尊厳なのだ。ナチの時代に明瞭な「悪」に抵抗することで命を散らした無名の彼の姿を、今、我々がスクリーンで見ている奇跡。これこそ、一粒の麦死なずば、の具現だった。


フランツの故郷の山がうちの実家近くの行縢山そっくりで、しばしば自分の人生は何だったんだ、と内省の思いに誘われたですよ、あはは…。「名もなき生涯」、宿題を与えられる映画だと思います。すごくよかった。

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