港岳彦

脚本家です

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NTL「スカイライト」

NTL「スカイライト」。何度見ても本当に素晴らしいです。平凡な家庭に生まれたが、実業家となり富裕層の仲間入りを果たした初老の男と、弁護士の家に育ち、大学を主席で卒業しながら今は底辺層の子供達の教育に人生を捧げる女。過去不倫関係にあった二人の、再会の劇。 入り口はありふれた男女の物語だけど、眼前に広がるのは階級社会と資本主義経済をめぐる折り合わない議論や、女性の自立を阻む「過剰な男らしさ」、小金持ち保守へのリベラルの苛立ち等。いかなる恋愛も政治性を孕むのだ。「最小で最大を表現

    • NTLイヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出「橋からの眺め」

      90年代にデニーロがスコセッシによる映画化を切望してた記憶。マークス・ストロング怪演の本公演を見ると、なるほどこの思い込みの激しい男をデニーロが演じたくなるのはわかるなあ、と思った。あの偏執狂演技が目に浮かんで仕方なかった。 同じ家に暮らす姪をきわどく愛するおっさんの自滅。ドメスティックで気色悪い話ではあるけれど、終幕で語り部の弁護士が言うように、彼は純粋さを晒け出しただけなのかもしれない。血の雨が降るクライマックスに、ギリシャ悲劇より文楽の凄惨さを思ったのは、箱庭的ミニマ

      • NTL「みんな我が子」

        NTL「みんな我が子」。暗転してカーテンコールが始まった時、心底、ああ虚構で良かったと思った。上演中ずっと現実の出来事の渦中に放り込まれていた。戦争から派生した「父と子」問題と「弟の恋人」問題の二つの線が交わる時、衝撃のカタストロフが訪れる。配信ドラマ全12話完走したような分厚い手応え。 アーサー・ミラーって巨大で偉大で重厚で、ちょっと苦手意識あったんだけど、この作品はメロドラマ的設定(死んだ弟の恋人と恋に落ちる兄。だが彼女の父は父の仇敵)を重力に、人物の運命を翻弄するスト

        • 「名もなき生涯」(テレンス・マリック監督)

          「名もなき生涯」(テレンス・マリック監督)。ナチスの時代、オーストリアの農夫、フランツ・イエーガーシュテッターが良心的兵役拒否を行い、死刑に処されるまでを綴っている。いつも通りのマリック映像美に加え、悪に対して信念を貫き通す尊さをストレートに謳っていて素晴らしい。 いきなり卑近な話題だけど、昨日報じられた、加計学園が韓国人受験生を全員不合格にしたとされる不正入試疑惑。お友達の安倍晋三が学園新設時の問題で罪科を逃れたことや、森友学園問題で自殺者を出したことまで遡及的に思い出さ

        NTL「スカイライト」

          「リーマン・トリロジー」(ステファノ・マンシーノ原作、ベン・パワー翻案、サム・メンデス演出)

          NTLの「リーマン・トリロジー」(ステファノ・マンシーノ原作、ベン・パワー翻案、サム・メンデス演出)。コロナ・ウィルス恐怖症蔓延の平日の真っ昼間に超満員。そうだよね、3時間40分(休憩35分)ひたすら面白いもん。起伏に富むボリューミーな物語、西洋版大河ドラマ、そして名優たちの至芸を存分に味わえる舞台芸術の真髄。贅沢だなあ、と何度もため息が出た。 世界最大の銀行リーマン・ブラザーズ発足と2008年に破綻するまでの160年を、たった3人の演者と一つの装置、シンプルなピアノの劇伴

          「リーマン・トリロジー」(ステファノ・マンシーノ原作、ベン・パワー翻案、サム・メンデス演出)