NTL「スカイライト」

NTL「スカイライト」。何度見ても本当に素晴らしいです。平凡な家庭に生まれたが、実業家となり富裕層の仲間入りを果たした初老の男と、弁護士の家に育ち、大学を主席で卒業しながら今は底辺層の子供達の教育に人生を捧げる女。過去不倫関係にあった二人の、再会の劇。

入り口はありふれた男女の物語だけど、眼前に広がるのは階級社会と資本主義経済をめぐる折り合わない議論や、女性の自立を阻む「過剰な男らしさ」、小金持ち保守へのリベラルの苛立ち等。いかなる恋愛も政治性を孕むのだ。「最小で最大を表現する」お手本みたいな作品。しかも一貫して笑える!

立役者は兎にも角にもビル・ナイ!極端に神経質で「落ち着き」という概念皆無な動きは一周してダンスのよう。非英語圏の者にもわかる絶妙な間の取り方。椅子を足で押す芝居を執拗に繰り返した挙句、キャリー・マリガンにパロられるところ大笑い。傑作戯曲だけど、演者がその魅力を100倍200倍にしてる。

終盤、「ソーシャルワーカーがどんな仕事をしてるか知ってるの!?」と、自らを犠牲にしながら絶望的な職務に取り組む人々の想いを、キャリー・マリガンが奔流の如き台詞で捲し立てる。直後、劇場の客席から一斉に拍手が沸き起こった。グッときた。声なき者の声を代弁する役割が、演劇には確かにある。

ビル・ナイのために書かれた芝居で、初演は96年。それゆえ二人が親子ほど歳の離れたカップルに見えるのが今となっては微妙なところ。往時のフェミニズムへの距離感はマメットの「オレアナ」に近い。つまり男性キャラは彼女らの主張が理解ができない。もどかしい点だけど最早こういうのも歴史だなと。

美学校でもテキストの構造分析をしたんだけど、本当によくできた戯曲で、学ぶべきところが多々あった。「悲劇喜劇」2019年1月号に掲載されていて、これ翻訳も素晴らしい仕事をされていると思うので、興味のある方は是非。ちなみに池袋シネリーブルでは13日にも上映されるよ。ってなんで宣伝してんだ俺

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