養魚秘録『海を拓く安戸池』(4)~タイの試育~
野網 和三郎 著
(4)~タイの試育~
四月初旬から五月にかけて産卵のために外洋から入りこんでくる沖桝網でとれる大鯛の蓄養計画を立てたのである。然しそれも産卵前の高価な桜鯛ではなく、八十八夜以降梅雨期にかけて産卵を終えて、また外洋へ帰ってゆく瘠せこけた価格も非常に安く、食べてもまずい帰り鯛を放流することにしたのである。これを蓄養して肥らせば幾倍かの高値に販売出来ることは間違いないとの見通しであった。
鯛は他の雑魚と異なり鱗一枚剥がしても価格に影響するといわれる程の、高級魚であるためみんな取扱いや運搬等については十分気をつけ操作したことにより一尾の斃死も見ずに無事大鯛七〇〇余尾がこの区画内に放流されたのであった。この区画の両側基点には一間真四角の番小屋を建て、その屋上三間の高さには丸太で組み合わされた魚見櫓を作ったので私は作業のあい間はもちろん、昼も自炊でこの番小屋の主となったのである。