遺伝育種でおいしい養殖魚づくり 愛媛大 南予水産研究センターの挑戦
養殖技術の進化と育種
脂ののりや歯ごたえなど、「おいしさ」につながる優れた形質を持った親同士を掛け合わせ、よりおいしい養殖魚を育てる ― 。青果や家畜の生産で当たり前に行われる営みも、魚の世界では一般的ではありません。
養殖技術の進歩は目覚ましく、優良な個体同士を掛け合わせる「選抜育種」などが進められた結果、成長の速い魚、病気に強い魚などがマーケットに出回るようになりました。ただ、野菜や果物と違い、味の良い魚同士の掛け合わせは進んできませんでした。
当然の話ですが、おいしいかどうかは食べてみなければ分からず、食べてしまうと交配ができないため、味の良い魚同士を掛け合わせるのが難しいというのが大きな理由です。
愛媛大学 南予水産研究センターの挑戦
次世代育種システム「e-Breed」
こうした中、スマ(※)の完全養殖の研究で知られる愛媛大学の 松原孝博 南予水産研究センター長らは、次世代育種システム「e-Breed(商標登録)」を構築し、「味」を含めた養殖魚の高品質化に取り組んでいます。
※スマは「幻の高級魚」と言われる希少な魚です。
e-Breedは、
選抜育種
優良形質を永久保存する生殖細胞凍結保存バンク
借腹生産による復元
を組み合わせ、高品質な養殖魚を効率よく量産する技術を確立する試みです。
たとえば成長の良いスマを育てるという基本的な方向性が根底にあり、その上に「脂がのりやすい」などの形質を付加していくイメージです。優れた形質を持った個体の未熟な生殖細胞を凍結しておき、別のスマの腹を借りて復元することで、優良個体のスピーディーな生産につなげる狙いです。
研究成果を他の魚種へ活かす
さらに松原孝博センター長は
「スマで技術を開発し、得られた研究成果をより産業規模の大きいマダイやブリに転用していきたい」
と語り、
「特にブリは天然種苗への依存度が高く、人工種苗を用いた育種の研究が進んでいるとは言い難い。これから、育種の研究と実用化が最も求められる魚種」
と指摘しています。
養殖魚の育種に関するセミナー開催
愛媛大学 南予水産研究センター長 松原孝博氏登壇
みなと新聞オンラインセミナー
みなと新聞では11月22日13:30から、松原センター長に登壇いただき、オンラインセミナー「遺伝育種でおいしい養殖魚づくり」を開催します。
松原センター長らがこれまで研究してきたスマの育種や完全養殖に加え、次世代育種システムについてお話しいただきます。さらに、今後の展望として、日本の海面養殖生産量の大半を占めるブリやマダイの高品質化育種についても、語っていただきます。次世代育種技術の中でも、特に「味」をターゲットにした育種を中心にお話をいただく予定です。
セミナーの詳細、お申し込みはこちらから
魚類の育種と言えば、成長の速い個体や病気に強い個体を掛け合わせるようなケースが一般的で、「味」のコントロールは主として飼料が担ってきました。味や品質をターゲットにした魚の育種は、この分野で先行する農業の育種に近づく技術と言えるでしょう。
味に関する形質をどのように育種に反映させていくのか、どのような要素がおいしさに結びつくのか―。
皆様のご参加をお待ちしております。