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第205回

牧野伊三夫 →  石田千さんへ

 朝、布団のなかで足の裏に湯たんぽの温かみを感じていた。長らく敷布団とシーツの間に湯たんぽを入れていたが、寝ているうちにいつの間にか布団の外に蹴りだしてしまい、朝になると冷たくなっていた。それでこのあいだから、敷布団と床の間に入れるようになった。こうすると目がさめてからも、布団の底がオンドルのようなやわらかな温かみが残っている。まだ朝四時をまわったところで、部屋のなかも庭も暗い。野鳥もないてなくて、柱時計の振り子が小さな音をたてている。暗いなかで寝起きのボンヤリとした頭で自然と描きたい欲求がやってくるのを待ったが、なにもやってこず、目をつぶるとまた夢へ戻っていく。隣の布団では、妻が寝息をたてている。
やがて庭の光がすこし青みがかってきた頃、布団を出て風呂の湯を沸かしにいく。
 奥飛騨の湯ノ花を少し濃いめにいれて窓をあける。そうして浴室の明かりを消し、夜明けのまだ薄暗いなかでぬる湯に体を沈める。外の冷気が髪や顔にあたって山の露天風呂のように心地よい。浴槽のへりに頭をもたせかけて目をつむる。また眠りそうになりながら、自然に描きたくなるまで、しばらく絵のことは忘れよう。アトリエにも入るまい。そんなことを思っている。こんな日が、いく日つづくのか、、、、、、。
 玉川上水の雑木林の小道を枯葉がおおいはじめた。夏に見た、あの大きなヤマカガシは、もう冬眠したか。木枯らしが吹いたら、すっぽり土をかくしてしまうだろう。そこを、手袋とマフラーをしてザクザクと歩いてみたい。
  (11月27日月曜日)

牛窓(スケッチ) 2023年11月 紙に鉛筆

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