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第122回往復書簡 スイートピー、16時25分

石田千 →  牧野伊三夫さんへ

 よっちゃんと大ちゃんのこと、のろのろ進めているうちに、おひなさまもすぎ、桜も咲いた。バレンタインのお返しの、ホワイトデーも終わっていた。
 金曜日の買いものは、アルコール、洗剤、パン、くだもの、ヨーグルト、ビールにワイン。どっさりある。
 そうして、さいごは、おにくやさんに寄って、すこしおしゃべりして帰る。
 きょうは、牛すねを300グラム、ソーセージを6本。桜のはなし、新学期のはなしをして、それでは、また来週に。帰りがけに、ちょっと待っててください。娘さんは、お店のおくにひっこんだ。
 ……これ、息子からです。本人がお渡しすればいいんですけど、出かけていて。
 透明の手さげ袋に、お菓子とお花。ホワイトデーのプレゼント、毎週金曜日にくると知っていて、用意してくれたのだった。
 バレンタインまえの金曜日、スーパーマーケットでいろいろチョコレートを買って、いつもお世話になっているお礼に、みなさんでともっていった。息子が、よろこびます。ことしはひとつももらえないといっていたから。娘さんは、うれしそうにしてくださった。
 よっちゃんのいうとおり、ことしのバレンタインデーは月曜日。月曜日は、おにくやさんの定休日。大学生の息子さんは、春休みのあいだ毎日のようにお手伝いされている。なかなかお友だちにも会えないのかな。それで、いろいろのチョコレートのなかから、ピンクのいちご味のチョコレートをひっぱり出して、このピンクのは息子さん専用にさしあげてくださいとお願いたのだった。
 そんな、ひょいとわたしたチョコレートに、すてきなお返しをいただいてしまった。
……お花は、イシダさんのイメージそうですよ。
 うふふ。笑顔で見送られて帰ってきた。
 部屋にお花を飾るのは、2年ぶりかもしれない。
 あおいスイートピーを、一輪挿しにいれると、すこしうつむく。
 しろい花に、インクを吸わせたような、スカイブルー。やせっぽちで、うつむいて、寒そうにているからかなあ。いやいや、可憐で、涼し気ということでしょう。ながめると、耳のなかで、大貫妙子さんの突然の贈り物が流れる。
 恋のお話を書くと、すこし気もちも明るくなる。それより、現実は、もっとずっとうれしいものだなあ。
 青春さなかの青年に、お花とお菓子をいただいて、おばちゃんは、ときめきました。どうもありがとうございました。


  うつむけど茎はまっすぐスイートピー 金町

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