第123回往復書簡 足立山 糸島半島でのスケッチ
三月の終わり、福岡の糸島半島にある塩田へスケッチ取材に行く。
塩田の主に家を借りて、自炊しながら四泊したが、朝の散歩のとき、岩場で貝をとってきて作った、カレー味のパエリアがうまかった。
静かな海岸には、だん竹という名の細い竹が海風であおられ、ドライヤーでなでつけた髪の毛のように藪をつくっていた。家の庭には棕櫚やキツツキなどの野鳥が来る大きな木があった。二階にあるバルコニーからは海が見渡せた。朝になると、彼方に見える島影や時折エンジンの音を響かせてのろのろ走る漁船など眺めて、珈琲を飲むのが楽しみだった。毎日、家から海が見えるというのは、実にいいなと思う。
四日目の晩だった。夜通し台風のような春風で家が揺れ、布団のなかで窓に吹きつける雨と風の音を聞いていたが、どうにも落ち着かないので、起きてウィスキーを飲んだ。やがて夜が明けて、しばらくすると雨が上がり、唐津湾に大きな虹が出ていた。
塩田「とったん」
福ノ浦
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