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第99回往復書簡 足立山(日記と手紙)

牧野伊三夫 →  石田千さんへ

  林業の木版画

 福岡県の糸島半島で、ここ数年、林業をテーマに、地元の人たちが広場にテントを張って出店を並べる「シニング」というイベントが行われている。シニングというのは、日本語にすると間伐材という意味らしい。
 もうひとつ、大分県の日田市には「ヤブクグリ」という有志による地元の林業を応援する会があって、僕はこの会の会員だ。こちらは林業のことをもっと知ってもらおうと、めしの上に、丸太に見立てた煮ごぼうをのせた「きこりめし」という弁当などつくったりして活動している。
 ヤブクグリは毎年糸島でのシニングのイベントに参加していて、二年前に、僕は会場で似顔絵屋をやったことがあった。ほんの遊びのつもりでやったのだが、ずいぶん予約があって、その日は一日中似顔絵描きをやることになった。
 今年の春、シニングは糸島から博多駅前の広場に会場を移して、イベントを行った。そのときは友人のミロコマチコさんが告知のポスターの絵を描いたが、人通りも多い場所で、ずいぶん盛りあがったそうだ。そして、今年の十一月、今度はヤブクグリの活動拠点である日田でやることになったらしい。シニングがヤブクグリを訪ねるというのである。それで夏の始まりのころだっただろうか、会員の僕にポスターの絵の依頼があった。しばらくスケッチをしていたが、杉がたくさん植林されている日田の山と、山で木を切っているのとふたつ、木版画を制作して渡した。

日田の林業 木版画 2021年

             「日田の林業」

杉の山 木版画 2021年

               「杉の山」

  十円玉の貯金箱

 ことしの夏に、はじめて絵本を出版して、もう四か月ほどたった。コロナになってから時間の感じ方があやふやになっているので、もうずいぶん前のことだったようにも思えるし、つい、先日のことのようでもある。
 先月その絵本の版元であるあかね書房に、荻窪の「Title」という書店から、原画展のおさそいがあった。ここでは一昨年、千さんの著書『窓辺のこと』が出版されたときに原画展をやったことがある。実は僕は、書籍の原画展をやったのは、あとにも先にもこのときだけである。本のために描いた絵を、わざわざ額装して展示する気になれないのだ。本のために描く絵は、壁に掛ける絵とはまったく別のものであると思っている。そんなわけで、原画の展示はやらず絵本とは関係のない木版画などを展示することにしたのであるが、せっかくの出版記念の展覧会である。なにかこの絵本にふさわしいものをと考えて、手作りの貯金箱をつくって、会場にならべることにした。
(10月11日月曜日)

『十円玉の話』 貯金箱

               「貯金箱」

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