第229回
牧野伊三夫 → 石田千さんへ
寝ころんで、ネナ・ベネッサノウを聴いている。もうずっと。
あの日、車にガソリンと水、それにフランスパンとイワシの缶詰めなどの食料を積んで、トゥリアラからフォールドーファンへ向かっていた。僕は画材を入れたカバンにマルティニックのラムをしのばせて、堀内君と後部座席に身を沈めていたが、その飲料用のペットボトルに入れたガソリンが燃えるのではないかと案じていた。
彼らは、森のなかで迷ったが、地図はおろか、磁石も星座も頼りにせずに、ベヘルカの浜までたどり着き、「トゥンガ」と叫んだ。僕は心の底からおどろいたが、そのとき、かすかに心の奥で、幼き頃、自分の意識が宇宙へとつながっていた頃を思い出していた。
(6月17日月曜日)
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