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第239回往復書簡 あとはあした、19時半

石田千 →  牧野伊三夫さんへ

 秋の雨がつづく。しとしと、朝は傘をさしたけど、帰りはささない。はんたいの日もある。
 よく食べ、よく眠り、よく歩いている。元気はあんまりないけど、からだは、だいじょうぶのようす。
 遠出の前日は、早寝。うまくいけば。19時半、遅くとも20時にはふとんにはいる。そして、2時半に起きる。
 読書の時間は、夕食のとき、冷凍したパンが焼けるまでの15分。それでも、ぽつぽつつづけて、里見弴『道元禅師の話』を読み終えた。解説は、水上勉。
 仏教のことばのわからないところは、そのままに、声にして読んだ。禅師のおいたちから、宋での修業時代、そして帰国ののち、永平寺にいたるまで、書き手の語りは、かろやかだった。
 道元禅師は、54歳で亡くなられた。
 里見さんは、その早逝を、厳しい修業をつづけ、無理が積もり、限度を越えられた。60代、70代、80代、高齢となられた禅師のお声をうかがうことは、かなわなかった。そのことを惜しむ。
 語る声の実感。道元禅師の心身に、終始こころから親身になって書かれていた。その声のあたたかさについて、水上勉さんも、感じ入ったと記されていた。
 ベッドに大の字、ストレッチ、おなかのマッサージ、目をとじる。
 おとなになって、無理をしないで生きた日はなかったかもしれない。遊びも仕事も、みんな、無理をおして、しのいできたかもしれない。
 ため息つけば、あしたのあれこれが、わいてくる。
 ぎゅっと、目をつぶる。
 ……からださん、こころさん、あとは、みーんな、あしたです。おやすみなさい。
 天井にむかって声を張り、すとんと寝た。

  秋雨に岩波文庫読み終える      金町
  (10月11日金曜日)

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