第104回往復書簡 歌声、16時25分
石田千 → 牧野伊三夫さんへ
よいお年を、おむかえください。
11月2日、診察室で、体調にかわりがないことをお伝えすると、それではつぎは来年の2月に。先生は、予約票を印刷してくださった。受けとり、立ちあがるとき、ことしはじめて声にした。先生は、目をあげて、もうそんなころですね。そして、どうぞよいお年を。ゆっくり会釈してくださった。
きょうは、病気の申請の書類、年末調整、インフルエンザワクチンの予約。いろいろ用事が増えてきて、はやくも年の瀬がはじまった。来年の日記も用意した。こちらも、除菌の手間があるので、はやめに入手。牛歩の年なのに、たったか、せかせかと寅年にむかう。
郵便局を出て、夕飯の巻きずしをぶらさげて歩く。公園で、保育園のこどもが遊んでいる。よじのぼったり、しゃがんだり。笑ったり、地団駄踏んだり。
チャ、チャ、チャ、チャ、ダイマイ。
ひとりが歌ったら、すずめのように増えて、ダイマイ、ダイマイ。
あれ、これなんだっけと過ぎて、大通りでBTS。いまどきのちびっこは、世界最先端の音楽をちゃんと知っている。チャ、チャ、チャ、チャ、ダイマイ。血流のよくない脳で、まねをする。くりかえす。なんだか、よくなるおまじないみたい。
そうして、また路地にはいると、こんどは駐車場に敷物をひろげて、女の子たちがお茶会をしていた。
たのしそうね。声をかけると、たのしいです。かわいいお返事。きちんと正座している女の子は、ありがとうございますといった。それから、じゃあもう一回だよ。
かえるのうたが、きこえてくるよ。
輪唱に送られて過ぎると、すぐにつられて、とぎれて、笑い声になった。角をまがって、公民館でトイレをお借りした。出てくると、二階から、きれいなコーラスがきこえた。翼をくださいだった。きょうは、歌のわらしべ長者。コンサートも、ずっといっていないから、椅子にすわって、最後まできかせてもらって、手をたたいて出る。
古い教会を、夕日が染めている。日曜日になったら、讃美歌が聞こえてくるのかな。
マスク生活がはじまってからは、鳥の声になぐさめてもらった。だんだんと、町に歌声がもどってきて、とてもうれしい。
輪唱のすぐにとぎれて冬の子ら 金町
(11月12日金曜日)
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