第146回往復書簡 ずぶ六さん、22時50分
石田千 → 牧野伊三夫さんへ
小沢信男さんのご本を読み終え、ことし2冊めの読書は、大竹聡さん。ずぶ六の四季。
9月もなかばのいま、半分ほど読んだ。3年のあいだ、除菌に明け暮れ、新しい本は読まなかった。ことしは、2冊は読み終えられそうで、うれしいなあ。
毎晩、寝るまえ、見開きの一話を、ちびちびと読む。
大竹さんのおさけのはなしは、豪快なのに、しーんとしている。じっさいにお会いしているときも、おなじなので、読むと、ならんでのんでいるみたい。
おでんやさんでも、バアでも、たくさんのむのに、のめばのむほど、しーんとする。暗いはなしをするわけではなく、大竹さんの声がおおきくない。それがそのまま、文章になっていて、ほろ酔いのように読める。
じっさいとちがうのは、いろいろ食べる。お寿司も、もつ焼きも、たっぷり食べている。おでんやさんにいるのに、おでんを食べずにせっせいとのんでいるのを見ていた。昼にたくさん食べておくんだともきいていた。おんなじにのんでいたら、つぶれる。それで、気にしないことにして、せっせとおでんをいただいて、さいごのかけめしまで、しっかり食べてのんだ。あれは、おとなのおさけと、こどもの晩めしという夜だった。ごじぶんで料理もされる。大竹さんの、ひとりのときのおさけは、筆者のおさけと思った。
大竹さんと、むかいあってのんだことはなく、いつも横ならびなので、2ページ読み終えると、ふいと窓のほうを見る。それから、ちょっとぽかんとして、歯を磨こうと立ちあがる。
酒蔵の勉強会に参加していたり、町の酒やさんと親しくされたり、まじめでりっぱなずぶ六さん。きょうのページには、牧野さんのおなまえがあった。
大竹さんに初めてお会いしたのは、いつかの暮れの晩、HBギャラリーの牧野さんの個展の初日だった。たくさんのかたが集い、みんな笑って酔ってたのしかった。入口で火をおこして、干物なんか焼いて。港町の宴会みたいだった。
追伸として、ご報告を。小沢さんのご本を読んでいるあいだ、なぜか夜中にちかちかして蛍光灯は、読み終えたらいつのまにか、ちゃんと消えているようになってしまいました。さびしい。
ちびちびと二ページ読んで虫の声 金町
(9月16日金曜日)
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