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第226回往復書簡 音読、19時

石田千 →  牧野伊三夫さんへ

 夕食は、パン。冷凍してあるので、焼きあがりまで、16分かかる。
 アルミホイルでくるんであるのを、焼き網にのせて、表裏4分ずつ。ホイルをはがして、おなじように4分ずつ。4分ごとに、キッチンタイマーに呼ばれている。
 焼きあがるまでは、おつまみタイム。みぎ手にはちいさな匙、ミックスナッツをすくって、ぽりぽり。左手は文庫本をもって、毎日16分のみじかい読書。声をだして読む。
 3月、4月は、三四郎を読んでいた。なんども読んで、そのたびに、いいなあとよろこぶ。ふしぎなのは、年をとって、再読するたび、こころのほうは若返り、せつなさが増す。アンチエイジングに、青春小説。おすすめです。
 三四郎が終わって、5月からは、里見弴の道元禅師の話。うちのお寺さんは、曹洞宗なので、読んでみようと10年以上まえに買って、そのまんまにしていた。
 漱石の語りくちも、けっして寡黙ではないけれど、里見さんには、かなわない。読みはじめてから14日たつけれど、まだ前口上がつづいている。今週中に本題にはいるかなあ。
 声にだしていると、会ったことのない作者が、うしろから、二人羽織のように、執筆していた時間につれていってくれる。ページがふくらんで、じぶんの声なのに、里見さんに読み聞かせをしてもらっているみたいで、おもしろい。
 ひと晩、16分。ピーピーとタイマーに中座しながらの音読。目も疲れず、長続きしている。巣ごもり以降の、数すくない、いいこと。

  梅雨近しラフマニノフのピアノかな  金町
  (5月24日金曜日)

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