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第160回往復書簡 青年と少年、16時20分

石田千 →  牧野伊三夫さんへ

 12月16日金曜日、牧野さんの展示初日に伺いました。
 画像で送ってくださっていた若いときの植木の絵は、思っていたより、おおきくて、明るくて、枯れているのに生気にあふれていました。
 余目の水田のまえに、懐かしく立つこともできたし、おいしそうなコハダもいただきました。巣ごもりになってから、はじめての絵の展覧会。あかるいギャラリーのなかで見ることができて、うれしかった。
 帰りは、ちょうど下校時間になっていて、きいろい帽子、いろんな色のランドセルとすれちがった。薬局、コンビニ、スーパーマーケット、パンやさん。  
 もうひとつのスーパーマーケットをめざすころには、中学校の下校時間になっていて、信号で、紺のブレザーの群れに混ざった。このあたりは、みんなブレザー制服で、詰襟、セーラー服はあまり見ない。
 そう思ったら、調剤薬局のまえに、男の子が立っている。学帽、詰襟、冬でも半ズボン、ランドセル。水丸さんの漫画の少年のようだった。
 薬局のなかを、じっとのぞいている。お母さんを待っているのかな。視線を追うと、おおきな画面にアニメーション。トムとジェリー、なつかしい。
 昨日は、めずらしく青年とメールのやりとりをした。
 今年のよろこびは、生き抜いたことです。読んで、返信の手がとまったままになっている。若いひとが、強いことばを使わなければいけない。申し訳なく、たのもしく、心配。手もこころも、迷ったままだった。
 けれど。牧野さんの植木鉢の絵の、あふれていた生気を見るうち、返信のことばを探しあてた。
 実物の絵を見るというのは、そういうことなんですね。
 月金帳を読んでくださっているみなさま、牧野さん、上野さん、ことしもありがとうございました。どうぞ、よいお年をお迎えください。

  年の瀬の展覧会に花届く   金町
  (12月23日金曜日)


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