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第145回往復書簡 植物標本

牧野伊三夫 →  石田千さんへ

 小倉のアトリエの片づけをしていて、小学生の頃に作った植物標本が出てきた。落書き帳に家の近所の原っぱで摘んできた荒地花笠なんかが貼ってあるが、時を経てセロテープが黄ばんでいる感じなど、なかなかよいのでしばらく壁に貼って楽しむことにする。
 その頃は、朝顔やほうせん花、ひまわり、へちまなどの種を植え、ひとつの種がたくさん増えていくのがなんとも面白かった。それから、ヒヤシンスやクロッカス、ジャガイモなんかの水栽培。家の前に鉢植えが増えていくので、そのうち親が家の屋上に花壇を作ってくれ、毎日水やりにいっていた。理科が一番好きで、次は体育。図画工作は三番目だった。
 カエルやフナの解剖も面白かった。浮袋がフナの体内にあることなど、ひどく好奇心をそそられた。フナになってみようと、風呂場で深く息を吸って胸を膨らませ、水中で手足を伸ばしてフナと同じ紡錘形になり、体をくねらせて泳いでみた。しかし、いくらやっても前に進まないのであった。そういえば、アメンボになろうとしたこともあった。銭湯で両手両足の先を四つの洗面器にのせて浮こうとしたが、こちらも何度やっても沈んでうまくいかないので、そのうちにあきらめた。
 さてさて、今月は久しぶりに京都のnowakiで個展だ。少しでもよい絵が描けるとよいのだが。
  (9月5日月曜日)

植物標本 1975年頃


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