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第169回往復書簡 猫の肖像

牧野伊三夫 →  石田千さんへ

 京都の、みにちゃん、筒井君ご夫婦から一緒に暮らしている猫の写真が送られてきた。肖像画を描いてほしいとのこと。写真を見て描くと、どうしても絵が薄っぺらになるので、実物を見て描いたほうがよいとも思ったが、きっとうろうろしてだめだろう。赤ん坊や動物を描くのはそこのところが難しい。じっくり写実的に描くとか、素早く即興的に描くとかにもよるけれど。写真には、ある一方向から見たほんの瞬間の平面的な情報しかないので、それをなぞるだけでは満足な絵にならない。実物と向き合って、毛をなでたり、ニャーというなきごえをきいたり、きょろきょろするところを見ているうちに、なんとなく猫情報が蓄積してきて、それが絵になるのだ。
 そんなことを思いながら、アトリエにその猫の写真を貼って毎日じっとにらめっこをしているのだか、この猫の魅力というのはよほど強いと思われる。もうそこに写真がないと淋しいような気がしているのである。日々、体をすりよせられたり、見つめられ、餌をねだられたりする二人は相当まいっているにちがいない。さて、その大事なお猫ちゃんをどうやって描くか……。もうしばらく、どこかからニャーという声が聞こえてくるまで見つめ合ってみるとしよう。
 (2月20日月曜日)

「髭を剃る男」 スケッチ 2023年


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