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第232回往復書簡

牧野伊三夫 →  石田千さんへ

 結膜炎で視界がボンヤリしている。このまま失明してしまったら、僕はもう絶望だ。
 セーヌ川に浮かぶ船の上で、ゆらゆら揺れながら行進する選手団の衣装と国旗のデザインをずっと見ていた。パリの街を舞台にした斬新で、芸術的な演出に、フランスという国があらためて好きになった。ずっと遠いところに、自由、平等、友愛のこんな国あるのだ。だから僕は絵描きになった。やがて日暮れて赤々と聖火を灯した気球が、愛の讃歌の歌声とともに夜空に浮かんだとき、僕は思わず涙した。
  (7月29日月曜日)

「小倉風景(スケッチ)」2024年7月28日

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