第195回往復書簡
牧野伊三夫 → 石田千さんへ
これまで、どんなに暑かろうと、アトリエに冷房を備えることを禁じて、真夏はランニング一枚に短パンで、扇風機をまわし、大汗をかきながら描いてきた。夏は、夏の暑さを感じてこそ、夏らしい絵ができるのだ。もう三十年ほど、そう考えて、昼間に何度も行水をしながら描いていた。しかし、天井板をとりはらった屋根裏がむき出しの、いまのアトリエになってからは、屋根が焼けた熱がそのまま伝わってきて、とてもではないが暑さに耐えられなくなった。いや、耐えられないよりさきに、アトリエに入りたくない。40度は軽く超えているだろう。早起きしてまだ涼しいうちに描いたりもしていたが、興がのってくる頃に、暑くなると思うと、気がめいってくる。異常といわれる暑さや、少し年をとって体が衰えたせいもあるかもしれぬ。それで、ついにこの夏、天井の断熱工事をして、エアコンを取り付けることにした。が、それらの工事が終わるのは、まだ先になるらしい。
今年の夏まで、暑さのなかで描く。そう思うと、なんだかこの暑さが愛おしいようにも思えてくる。
(9月11日月曜日)
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