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第198回往復書簡 びよういん、びょういん、11時半

石田千 →  牧野伊三夫さんへ

 9月の第1週は、朝いちばんに髪を切っていただいた。さっぱりしたあと、友だちが迎えにきてくれた。近くのかわいいカフェで、ひと息ついて、巣ごもりのあいだ、ずっとお会いしたかったかたのところにうかがった。
 午後は、友だちとふたり、涼し気な木々のみえるレストランでお昼をいただき、ほろ酔いで帰ってきた。
 そうして、第2週は、病院へ。4年ぶりの健康診断。胃カメラもある。
 かかりつけの先生に、事前の書類をいただきにいくと、変わらぬおすがた、お声にほっとした。
 ところが、先生のほうは、すぐに変わりように気づき、食事はとれていますか。ペンを持ち、カルテを開かれた。
 4年のあいだのあれこれを、かいつまんで答え、飲むようになった薬をお伝えした。
 すると、ひとつ要注意のものがあった。
 血液をさらさらにする錠剤で、胃カメラのためには、前後3日、服用をとめなくてはいけない。処方していただいた先生に、確認してくださいとのことだった。
 さっき、その確認のお返事をいただいて、だいじょうぶですとのことで、よかった。
 それから、母に電話をして、胃カメラのときに、薬をとめたか、きいてみた。
……そうだった、とめられたっけの。
 帰省したとき、母が毎日のむ薬のなかに、おんなじ薬があるのを見ていた。
83の母と、55の娘。こんなにはやく、おんなじ薬をのむことになるとは思わなかった。
 胃カメラは、例年だと眠る点滴をしていただいていた。
 それについても、かかりつけの先生はしばし考え、当日決めます。なしでいくかもしれません。いちどだけ、眠らず検査したことがあって、身をかたくした。先生は、すぐに気づいて、だいじょうぶ、だいじょうぶ。にっこりされた。
 それでも、点滴できるといいなあ。
 4年のあいだ、心身を省みることなく、ひたすら除菌をしていた。
 ようやく、すこしだけ、立ちどまって見わたすことができるようになってきた。
 胃カメラが終わったら、つぎの週は、4回めのワクチン。
 毎週あれこれしているうちに、あっというまに、秋も深まる。

  母と子とおんなじ薬秋の水     金町
  (10月6日金曜日)

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