見出し画像

第158回往復書簡 青山、15時20分

石田千 →  牧野伊三夫さんへ

 スソアキコさんの、帽子展。3年ぶりの、青山。
 表参道の駅の動線は、かわらなくて、よかった。地上に出て、交番もある。書店さんも開いている。信号を待つと、文具店も見えて、ほっとする。そうして、みぎをむいたら、角のビルは、なくなっていた。
 三宅一生さんのブティック、コム・デ・ギャルソン。ある、ない。あたらしい、変わった。目玉は、一歩一歩、確かめている。
 スソさんのやさしいお顔は、ちっとも変わらない。うれしくて、会うなり泣きそうになって、トイレに逃げた。おめでたい場所で、泣いてはいけない。
 アンチヘブリンガンでお会いしていらいだから、ほんとうにひさしぶり。
 たくさんの、あたたかそうなお帽子がある。トルソは、芸術作品をかぶっている。まえなら、ぜんぶかぶったのに、いまは、こわくて、触らない。お客さまのたのしそうなご様子を、うらやましくながめる。スソさんは、今夜KISSのさいごの来日公演にいくとのことで、拳を突きあげていた。タフで、たのもしいなあ。
 帰り道、また変わった、かわらないと歩く。すてきなお洋服のひとが、落ち葉掃きをされていた。きのう雨が降ったから、長いスカートで、大仕事をされていた。
 表参道は、かわらない人出だったけど、雨あがりのせいか、道の灰いろが濃くて、さびしそうに見えた。
 このさき、どうなることか、まったくわからない。あいかわらず、こわいこわいと生きているけど、いま青山を歩いている。去年の冬を思えば、信じられないくらいだった。
 牧野さんの展示も、もうすぐ。きっと、またすぐに、青山に来られる。そうして、そのうち、青山をあたりまえに歩けるようになっていく。 
  
  冬帽子KISSのライブは見納めと   金町
  (12月9日金曜日)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?