第184回往復書簡 告白、13時半
石田千 → 牧野伊三夫さんへ
読んでくださっているみなさん、牧野さん、上野さん、アスパラガスの穂と根もと、どちらがお好きですか。
きのう、親せきから、お米が届いた。電話でお願いしたとき、アスパラガスをすこしいれるから、届いたその日に食べてといわれていた。
ご存知のとおり、段ボールと格闘し、無事に室内におさめた。お米は5キロ、アスパラガスは、いま書いている万年筆の倍くらい太くてりっぱで、10本以上あった。
……なんぼなんでも、その日のうちは、食べきれねよう。
へたな方言で、冷蔵庫にたててしまった。
その晩から、翌々日の晩まで、たんのうした。さいごまで、東京のお店なら届いたばかりのようだった。そうして、おしっこが、アスパラいろになった。
根もとを、ぽきんと折れば、ピーラーで皮をむく必要もなかった。
農家のかたがたは、アスパラガスにも、きっと、ほかの野菜にも、すぐに食べねば竹になる。竹の子のような感覚で、接していらっしゃる。
そうして、毎日アスパラガスをひとりじめしているうちに、なんだか、そわそわしてきた。おちつかない。それで、今回、うちあけることにしました。
いままで、食事をごいっしょしたみなさん、ごめんなさい。ずーっと、うそをついていました。
みんなであつまって、食事をする。のんきに、ひと皿をわけあっていたころ。
アスパラガスをたのむと、かならず、穂と根もと、ゆずりあったり、じゃんけんになったりした。
じつは、それが、とっても面倒でした。それでいつも、根もとのほうが好きなんだといった。
たいていのひとは、さきっぽがお好きだったので、あからさまによろこんで、食べはじめるひともいた。ほんとうに、だいじょうぶなの。いぶかしがるひともいた。
もめずに食べられれば、どっちでもいいと思っていたけれど、そのうち、どっちもおいしい。なぜなら、お店のアスパラガスは、手を尽くされていて、根もとでも、すじがのこったりしない。うそをいいつづけたら、ほんとうになっていた。
このあいだ、ドイツ料理のお店で、しろいアスパラガスをいただいた。
ふたりでいって、それぞれ、ひと皿ずつ。旬のりっぱなアスパラガス3本、オランデーズソースがかかっていて、きれいだった。つけあわせにマッシュポテト、生ハム2枚、パンと白ワインで、くるしいくらい満腹。
みんなであつまって、またアスパラガスをたのんで、もめる日がくるのかな。
そうなったら、なつかしくて、うれし泣きしながら、うそをつくことにする。
ふるさとのアスパラガスはすっくりと 金町
(6月16日金曜日)
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