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第186回往復書簡 バナナ、9時6分

石田千 →  牧野伊三夫さんへ

 暑くなったので、バナナを食べている。
 いまだに、むきだしのくだものを買えない。バナナとキゥイフルーツはケースや袋にはいっている。バナナは、袋からだして、S字のフックにぶらさげて、アルコールを吹きつける。
 ちかくのお店で、5本はいっているものを買う。おなじ値段で、3、4本のもある。朝食にちょうどいいのは、すこしちいさめの、5本入りで、月曜から金曜まで食べる。きらしたときは、冷蔵庫で熟れてきたキーゥイフルーツ。
 バナナを食べるようになると、おなかが元気になる。おなかが元気だと、気もちも、あかるい。だけど、寒いときにバナナを食べても、なぜか元気にはならないので、キーウィフルーツばかりになる。
 先週は、夏至。夏がきたと思ったとたん、日はみじかくなっている。気づかぬうちに、あっけなく夏は終わってしまった気もちになる。
 バナナは父の好物だったので、母は、きらすことなく仏壇にそなえている。
 このあいだ帰ったとき、朝の挨拶のときに1本いただいて、母と半分こした。
 母は、血糖値の問題があるので、さっちゃんみたいに、いちどに半分。
 月末は、命日。5年になる。
 5年のあいだ、世の渦をぐるぐるまわっていた。
 6月30日、朝いちばんの飛行機に乗ったのは、はるかむかしのよう。

   仏前のそばかすバナナ静かなり    金町
   (6月30日金曜日)

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