第103回往復書簡 足立山(日記と手紙)
牧野伊三夫 → 石田千さんへ
切手七千二百枚
ことしはこれから個展がふたつ。田園調布にあたらしくできるギャラリー「un」と毎年恒例の原宿「HBギャラリー」。それぞれの案内状が刷りあがり、一緒に封筒に入れて送る準備をしている。ちょうど画業三十年の節目の年で、その記念にと初めて個展をしたときと同じように何種類かの切手を組み合わせて八十四円にして貼り、万年筆で宛名を手書きすることにした。その頃よりもずいぶん出す人が増えたので、もう丸三日もこの作業にかかりきりである。
画業三十周年といっても、何か特別な絵が描けるわけでもない。それにコロナで初日のパーティもやらないから、これまでと何らかわらない、日頃描いたものをならべるだけの、静かな展示である。
だけども、僕は一体何をやってきたのだろう。昼寝のとき目をつむって、これまで描いた絵や、いくつかのアトリエですごした日々を思い返してみて、三十年という時間に少し感傷的にもなった。ただ時が過ぎていっただけのことなのだが――。一人、友人に手伝いにきてもらって、妻と三人世間話などしながら封筒の山に七千二百枚の切手を貼っている。
(11月8日月曜日)
2021年個展の案内状 切手
un案内状
HBギャラリー案内状
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