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第178回往復書簡 みなも、20時

石田千 →  牧野伊三夫さんへ  

 いざというときに、ペットボトルのお水を買ってある。巣ごもりのまえに買って、ことしの4月末が期限になる。
 ふだんは、水道水をのんでいる。今月は、日田のお水。紅茶をいれて、お米を炊いて、おさけのおともに、ごくごく。
 やわらかくて、するする飲む。コップ1杯のんで、もっと飲みたいと思う。
 いいお水だなあ。そして、日田をこいしがる。
 日田をたずねると、おさけも、野菜も、くだものも、食事どきにならぶものは、みんなおいしい。そういうと、日田のかたがたは、水がいいから。かならず、そうおっしゃる。すべて、水がいいから、おいしい。
 夏が近づくと、日田の水は、おいしいとばかりいっていられず、しばしば災害にみまわれる。それでも、どんなにたいへんな思いをされても、やっぱり日田のみなさんは、水を尊び、ほこらしく思っていらした。
 どこでも、その土地ごとの誇りがあり、海、山、川。自然物は、その存在を越えて、土地のひとの心身の芯となっている。
 そう思うと、自然からとおい東京のひとは、なにを芯にしているのかな。
 ワインと日田のお水を交互にのみながら、ラジオは、ニュースの時間になった。
 ことしの夏は、隅田川の花火大会が開催されます。きいたとたん、椅子から立ちあがり、夜空をみあげてしまった。おそらく出かけないのに、びっくりするくらい、うれしくなった。
 花火大会の夜、ちがう町にいても、どーんと響く花火の音。そうして、川のほうの空が、あかるく煙る。見にいかなくても、こころおどる。
 ほんとうに、よかった。地元のみなさんは、どれほどうれしく、花火師のかたがたは、どれほど背すじをのばされ準備をされることでしょう。そのお気もちは、このあいだ帰省できたときに胸いっぱいに満たした思いに近いかもしれない。ただいま、おかえりなさい、隅田川花火大会。
 そうなんだ。東京ひとの芯もまた、川の恵みなんだ。そして、ひともまた、自然の一員。
 隅田川の花火大会は、雨にみまわれることが多い。
 どうか、ことしは、晴れますように。
 そうして、明日の買いものメモに、日田のお水を注文と加えた。
 まえに、アンチヘブリンガンの大久保さんと、バオバブ関東という名まえで歌ったり、ピアニカを吹いていた。そのとき作った歌を思い出したので、歌詞を書きます。長くなったで、俳句はお休みします。

             みなも           バオバブ関東

        ひかる みなも
        きいろい電車が とおく渡る
        あれは ゆりかもめ
        かなしみは きょうも 過去へ進む
        すれちがい 思いやり
        はなれて ほほえんでるひと
        風の 旅は
        ありがとうだけを つれていく
        つれていく

        (4月28日金曜日)
   


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