第121回往復書簡 便箋と一筆箋
牧野伊三夫 → 石田千さんへ
来月四日から東京・白金のOFSギャラリーで個展をする。絵と家具の展示で、家具の方は日田のヤブクグリ生活道具研究室と昨年の秋から半年かけてつくった椅子を三つと、杉板のお風呂の蓋を出品。絵の方は、アンフォルメルというか、禅の問答のような絵を今まだ描いているが、いつものごとく直前までどうなるかわからない。
それからもうひとつ、大分県の印刷所で特製の便箋と一筆箋をつくったのを出品する。印刷所の名前は高山活版社というのだが、県内では最も古く百年以上の歴史がある。ここに、ドイツ製のハイデルベルグ活版印刷機が二機あって、これで僕がレタリングして絵を描いた版下を刷るのである。これまで、東京と大分との間で、紙のサンプルや束見本、便箋の罫線の試し刷りなどのやりとりを重ねてきて、先日ようやく仕様が決まった。万年筆で書くのにふさわしい、いい感じなっていると思う。
さて、表紙にあしらう絵はどんなものがよいか、この数カ月、散歩の途中で風景画を描いたり、お風呂や晩酌のときに妄想を繰り広げたりしていた。人が手紙を書くときに用いるものだから、少し愉しい雰囲気がいいだろうとか、活版印刷のよさを活かした渋い感じの絵もいいなとか、そんなことを考えていた。あるいは、絵などなくて文字だけでもよいかもしれない、とも思ったりした。僕は、なにかを作るとき、こんなふうにずっとデザインのことを考えている時間がとても好きなのだが、いよいよ入稿日がせまって、その時間もおしまいになる。それで昨日、五案ばかり、描いた絵を窓口の高山香織さんに送ってどれにするか相談をした。タイサンボクや太陽、小鳥などをモティーフにしたものだったが、話すうちにどれも面白いということになって決められず、結局五種類作ることになった。こんな思い切った決断ができるのも、相手が印刷屋だからである。
(3月14日月曜日)
太陽たち 便箋
OFS展示プラン
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