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第175回往復書簡 浜名湖

牧野伊三夫 →  石田千さんへ

 なんとなく牛窓からまっすぐに家に帰りたくなくて、浜名湖の湖畔に泊まることにする。浜松駅のそばのロシア料理店で鰊の酢漬けやピロシキなどを肴にウォトカを飲んで、暗くなってから宿に着く。それからまた、部屋に敷かれた布団のそばでウィスキーを飲んでいた。
 翌朝は雨。くすんだ色の湖に養殖のための竹が、はるかむこうまで無数にさされていて、どんよりとした鉛色の雲がひろがっていた。こういう、しっとりとくすんだ光の景色が好きで、画帳をとりだして描いてみる。描いていると、牛窓でハルカ君とつくった曲がなんども頭のなかに流れた。
 
 高台から見おろすと
 ひざしをあびてキラキラとひかる海
 前島に向かうフェリーが見えるよ
  (4月3日月曜日)

「浜名湖」2023年 紙に鉛筆


 
 
 

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