第157回往復書簡 灰色の血
牧野伊三夫 → 石田千さんへ
妻と息子は、古楽器の演奏会を聴きに家のそばの森へ出かけて行った。僕は独り、アトリエにこもっている。淋しいね。
しかし、思うように絵はすすまず、途中で大きなため息をついて筆を置く。ソファに体をよこたえて目を閉じると、瞼の向こうにうららかな秋の日差しがある。そうやって、しばらくデュファイをかけて聴いていると、うとうととしてくる。
夕方になって、数日かけて描いた絵をつぶしにかかる。それが、今日一日の仕事の終わり。
もう片付けよう。洗面台に筆洗いの水を流すときに、いくつもの絵の具の色が混ざり白濁した、その灰色の水を美しいと思ってボンヤリと眺めるのである。
(11月28日月曜日)
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